町に人魚がやってきた【21】
神主さんの求めに応じ、館長がパソコンカチャカチャ。
出てきたのは墨絵。白装束で白いはちまき、右手にイカ、左手にタコ、頭の上に巨大なめくじ。
「これ、私の嫌いなものばっかりです」
入り口ドアが開いたのはその時。
「いらっしゃ……」
さっきの調子で萌えボイスが応じようとして、凍り付いたみたいに動作を止めた。
墨絵そのまんまの姿。ただし、持ってる動物がチト違う。右手にナマコ左手にイカ、頭の上にはタコ鎮座。
「通りに誰もおらんと思いやこのザマ。おのれらまんまと騙されおって!」
その姨捨山の持ち主の老男性。御年78。そう、かの山は私有地。
町としては観光アイテムと捉えたいが、この人が山裾ぐるりと有刺鉄線。発掘・盗掘の企みを阻止するのが目的とか。
日常じろじろ見張っていて、近づけば誰彼となく一喝するので評判すこぶる悪し。
「その方(ほう)、海嘯女であろうが」
「なん……ですかねぇ」
人魚は言って、目をぱちくり。
「ぬけぬけとほざきおって」
男性怒りのあまりか拳をギュウギュウ握って、お陰でナマコが肛門から内臓噴出(本当にやります)。
しかし人魚ってだけでその妖怪に該当するのか不明だし、ましてや激怒されるのも考えてみれば理不尽な。
「そんなに握ったらナマコちゃん可哀想ですよ」
人魚が優しくひとこと。
「うるさい黙れ。お前をこうしてくれたいわ。ええいどいつもこいつもたぶらかされおって。どうなるか判っておるのかっ!」
「色々伝説は聞きましたけど……」
「こうして話した限りとてもそんな怖い子には……」
眉をひそめる闇鍋参加メンバー各位。
対し、姨捨管理人氏はこめかみに青筋。
「それがたぶらかされておるというのじゃ!一番最初に見つけたのは誰じゃ。連れてきた愚か者は誰じゃ」
確かに人魚ってそもそも異常だが、ここまで悪し様に言うのもなんだかなぁ。
「オレっすけど」
オレは手を上げた。
(つづく)
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