町に人魚がやってきた【22】
「なんだ佐久間の甲斐性無しか」
いきなり何ぬかす。
「まあまあ作実(さくみ)さん。背景は我々も良く判りました。しかし話を聞く限りとても彼女にそのような下心、超自然的な力があるとは思えません」
「人魚のどこが超自然じゃないとぬかす館長!」
「まぁまぁ。その、作実さんが把握されている海嘯女対策はどんな内容なのですか?これですか?」
館長、例の墨絵をクリック。
現代語訳。海嘯嘯く口で呼ぶ。海嘯無きよう口ふさげ。海嘯無しで口ふさげ。
で、ちぎれ。
「その通りだ。カイショウナシ、貝を背負ってない貝を食わしてくれるのじゃ。さぁみんなしてそのサカナオンナを押さえつけろ。コイツを口に押し込んでくれる」
が、勇んでバスタブに飛びかかろうとした姨捨管理人作実さんの方がおばちゃん連中に取り押さえられてしまった。
「ええい離せババァ共。まとめて姨捨山にほかってくれるぞ」
「やだひどい」
「作実の、ナマコは貝じゃないぞえ」
おじさんが冷静に言った。
「イカやタコは頭足類と言って古くアンモナイトに原初をたどれる貝の親戚だが、ナマコは棘皮動物でまた系統が違う。だからこれを良く見ろ、なめくじになっておるだろう」
おじさんは画面を指さした。
作実さんは画面につかつか近づいて行って。
「なめくじかこれ」
「なめくじだ」
「なめくじこんなでかいのいるか?」
「なめくじの種類調べてみるか」
300インチ大画面に次々なめくじ画像が踊る。だが、ヤマナメクジが〝長い〟程度で、頭に載せてフィットする〝大きい〟のは出てこない。
「畑にも厠にもこったらちっこいのばっかりだよ」
「キイロコウラナメクジも最近は減ったねぇ」
キャーとかキモチワルイとかでなく、冷静な分析が出てくるところがおばさん達のすごいところ。
「ああ、冷めたら固くなってしまう」
誰かが言って……既にあらかた空っぽになっている鍋をガシガシオタマで掬う音。
「でかいなめくじなぞおらんではないか。ええいこうなったらしこたま集めて……間に合うか。おい甲斐性無し!このサカナオンナがここに来てどのくらいだ!いつ拾った!」
(つづく)
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