桜井優子失踪事件【39】
【鬼1】
「ネコの大王そのものじゃありませんが」
大きな〝瓊(に)〟を鈴で作って鬼骨山(きこつやま)に捧げ、荒ぶる鬼よ静まるようにと祈った(現代語訳)。
この文書がこれまで調べた内容とどうつながっているのか、説明が必要だが。
「鈴っていうのは、鉄分豊富な湿地帯で葦の根っこに付着する鉄の玉のことです。根っこに繁殖したバクテリアが体内に蓄積し、バクテリアの死後、鉄だけ残る。それが積もり積もってジャガイモみたいに幾つも。中は根っこが腐れば空洞になるので、石でも入れば鉄の玉がカラカラ鳴る。鈴の如し……本の受け売りですけどね」
登与の解説に、一同はおお、と唸った。
「なるほどそれで鈴か。しかしバクテリアで鉄って結びつかないんだが」
「血液が赤いのは鉄分だぜ。バクテリアの体内にあっても変じゃないだろう」
佐原龍太郎の疑問にマスターが即答。
「ああ、なるほど」
「ただ、そのバクテリアは、鉄を酸化させることで出てくるエネルギーで生きてるみたいですけどね。それで、瓊は勾玉に代表される球体のことです。鉄球か何かがご神体か、まつわる伝説じゃないでしょうか」
「太瓊天皇」
確信と共に理絵子は言った。
それは後の世に言う天皇ではないかも知れぬ。或いはこのような書き方は天皇の系統に傷つけたと言われるかも知れぬ。
しかし、国家がまだ体をなす前の時代だ。当時の実力者は〝天皇〟と称される可能性が誰でもあった。ヤマトの各地に〝天皇〟がいたかも知れぬ。歴史に名高い蘇我氏や藤原氏は天皇気取りと書けるだろうし、現在であっても、組織で畏怖される・君臨する存在を天皇みたいと揶揄する。
そんな傍系・異系の〝すめらみこと〟が、伝承の過程で幾人か取り込まれていても変ではない、のではないか。
〝太瓊天皇〟が、鬼のような体躯だったのか、或いは葦の根の鉄の玉を教えた縄文人か、それは判らない。ただ、製鉄に関し何か画期的な仕事をした大男なのは間違いあるまい。
ここが、ゴールだろう。後は、具体的な座標だ。
「鬼骨山って現存するんでしょうか」
登与は男達と、祖父母の顔を見て尋ねた。
「ああ、でしたらクルマのナビゲーションで検索してみましょうか」
(つづく)
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