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桜井優子失踪事件【37】

【因4】
 
「で、ここからが問題の方々で」
開化天皇-稚日本根子彦大日日天皇(わかやまとねこひこおおびびのすめらみこと)
孝元天皇-大日本根子彦国牽天皇(おおやまとねこひこくにくるのすめらみこと)
孝霊天皇-大日本根子彦太瓊天皇(おおやまとねこひこふとにのすめらみこと)
「ストップ」
「今、ネコって」
 マスターと佐原龍太郎が気付いた。
 その、崇神天皇の以前三代が、いずれも「ネコ」を含む。
 登与が目を大きくした。
「しかもこの三代は名前に……うん、太いとか、大とか、『くにくるのすめらみこと』なんて国を牽引だね。別に『くにおしひと』ってのもあるし。ああ、なるほど」
 登与は自身、その意味に初めて気付いたようだった。
「出雲の国引き神話」
 理絵子は指をパチンと鳴らした。出雲がつながった。
 来ている。これは来ている。主旋律。
「それもあるし。要は、国土形成、或いは国家成立の過程を象徴している。身体が大きい。神と人との中間的存在の可能性が高い」
「縄文人のことだとして整合性取れるかな」
「逆にそこが盲点かも知れない。私たちはそれこそ土蜘蛛伝承なんかから、ヤマト王権サイドの認識として、縄文人はイコール原始人扱いに違いないって一種の固定観念を持ってる」
「そうか。だけど逆に言うと、ヤマト王権には土蜘蛛は先住民という認識はあった」
「そこに、自慢の怪力で地形改変を行ったり、岩をゴロゴロ押す姿を見たとしたら?まして鉄器を使わず自然の恵みだけを糧に生きている。完全に八百万の神サイドの存在。人の姿をした神」
 登与が言い、少女二人は見つめ合い、期せずして文献を片っ端から引っ張り出した。これら「縄文人を思わせる大きな体で、ネコ」を含む文言が他にあるなら。或いはずばりその名が記された書物があるなら。
「鬼、何とか坊主、ナンタラの神、その辺か」
「だね。この辺の天皇は何かの象徴だから、大王、ミコトって表現はされてない可能性が高い」
 二人して超感覚を駆使する。文献の上に片端から手をかざす。ここまで来れば、最早隠しておく必要はない。ちなみに、マスターは理絵子の能力を知っているが、慣れているせいもあろう、殊更口にすることはない。
 
つづく

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