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桜井優子失踪事件【42】

【鬼4】
 
「ダメだな。『この先私有地。鬼骨山へは行けません』とかカンバン立ってる。無理くり分け入ったタイヤの跡はあるけど、岩場だから俺らの奴じゃな。オフロード仕様ならどうにかなるかも知れないが」
「無理くりはちょっと……誰かに訊いてみますかね。オレその辺走って……」
 言いかけた佐原龍太郎の声を遮り、乗り物が砂利を食む音。
 顔を向けると、古びた自転車の男性が、その道の奥方から走って来、逆に訝しげに見返された。
「あんたらも、〝スポット巡り〟ってやつかい?」
 立ち止まって彼らに声を掛ける。初老、と書いて良かろう。生え際がかなり後退し、広くなった額に皺を刻む。
「困るんだよね。無断侵入なんだよ。判ってるかい?……真面目そうに見える女の子だがねぇ」
 少女二人を上から下まで眺めてため息。もううんざり、という意識がありあり。
「申し訳ありません。友人がそこへ連れ去られた可能性があって」
 理絵子は頭を下げた。何を言うか考える。無理と無断は避けたい。
「見え透いたことを言うもんじゃないよ。悪いがそこは禁足地だからね。道なんかないよ。さ、帰った帰った。それとも110番されたいかい?」
 そこで登与がヘルメットを取り、頭(かぶり)を振って自らの髪に息抜きをさせ、
「(大きな瓊を鈴で作って鬼骨山に捧げ、荒ぶる鬼に静まるように祈った。)」
 原文を口にした。
 果たして男性の瞳が大きく見開かれる。見ていたこちらが驚くほど。
「そっちを知っているとは魂消た。何者だあんたたちゃ。〝蛇神の嫁〟で来たんじゃないのか?……本当に行方不明になったのかい?」
 どこまでいきさつを話すべきか迷ったが、行方不明の友人が〝だいだらぼっち〟伝承の原点を求めて安房に通っていたので、そこを切り口に調べていて古文書に出くわした。そして、禁足地は行方不明の可能性故に設定された可能性があるので回っている最中、と理絵子は言った。
 ただ一点引っかかる。男性の言う〝蛇神の嫁〟は調べてきたことと違う。
「近頃はインターネットで調べれば何でも出てくるそうで」
 男性は自転車から降り、スタンドを立てて言い、ため息を付いた。
「一つ訊くが、どなたか、霊能力をお持ちかい?」
「あ、はい」
 少女二人は同時に答えた。答えても構わぬと期せずして思い、互いの気持ちを確認し、同意のもとに声に出し、手を上げた。
 
(つづく)

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