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桜井優子失踪事件【41】

【鬼3】
 
 理絵子はヘルメットをかぶりながら、父親の携帯電話にメールを飛ばす。『鬼骨山巨人伝説と比定』。
 詳しい場所はネットで検索するだろう。
 携帯電話エリア地図を借り受け、ツナギを着込む。
「優子ちゃんにこれを。お腹空いてると思うと気が気じゃなくて…」
 祖母に託された食パンと缶コーヒー。
「道がないならこれを。何かの役に立つかも知れませんので」
 祖父殿が持たせてくれたのは、懐中電灯と方位磁石。
「確かに承りました」
 理絵子は手ぬぐいに包まれたそれらを受け取ると、バイクの座席下、手荷物スペースに納め、マスターと共に原動機にまたがった。
 海沿いを走り出す。しばらく南下し、国道から信号を折れて山越えの県道に入り、緩い勾配を上って行く。次第に勾配がきつくなり、人家がまばらになって行く。
 鬼骨山とおぼしき方向を目指して脇道に入る。片側一車線で中央分離線もあった道は、畑地を抜けると急に細り、アスファルトのヒビ割れた荒れた路面に変わり、そして未舗装の砂利道になった。
 両側に山が迫り、道はこの先間もなく行き止まり、と容易に予測される地勢。
 携帯電話も通話エリア限界。電波強度を示す3本柱のグラフが0本。
 一旦止まり、バイクを降り、休憩がてら桜井優子の携帯に発呼。……しかし、圏外または電源が。
 メール受信を試みる。……父親から返信が来ている。
『調べさせている。ネットで見たらパワースポットと書いてあった。お前の管轄だな。気をつけて』
 パワースポット……すなわち大地や神々の霊的エネルギーを感じる場所。
 他愛ないオカルト遊び。或いは正統派の伝承に便乗。
 殆どがインチキだが、ごく僅か本物が存在するという霊的現象によくあるパターン。
 この場合は、後者か。
 男達はこの間、携帯に収めた地図で当該の山と道筋探し。
「この辺から入って行かないとたどり着けないと思うんだが……ちょっと待っててくれるかい?」
 マスターが一人ゆっくりと機体を走らせ、道の奥へ向かう。
 その姿は立ち枯れた草むらの向こうに見えなくなったが、しかし程なく首を左右に振りながら戻って来た。
 
(つづく)

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