桜井優子失踪事件【48】
【山5】
〝違う〟
理絵子の答え。超常現象ではない。
そして、〝まただ〟二人の答え。
すなわち、一見理解不能の現象に見えても超常現象とは限らない。ここが神の領域だからといって、何でも霊現象に帰着させるべきではない。表面だけで思い込むな。
何がネックレスを引っ張っているのか。
金属を引きつける、目に見えぬ力。
「霊現象じゃありません」
理絵子は言い、バイクに戻って座席下の荷室から取り出したのは、借り受けた方位磁石。
針を見ると、どこぞの方向に貼り付き、指でつついた位ではびくともしない。つまり、強い磁力が働いている証左。
「磁石があるってのかい?」
「ええ」
理絵子は答え、まず正確な方角を調べる。針を引いているのが地磁気ではないことを確認するためだ。
方位磁石以外に方角を見極める方法は幾つか知られる。星座、切り株……。その他、日中であれば時計を使う方法もある。短針を太陽に向けると12時との中間がほぼ南だ。手持ちの時計がデジタルなら、文字盤を地面なり紙なりに描けばよい。
針の方向は西北西-東南東くらい。東南東が〝北〟。
「こっちが北はあり得んな」
果たして、対する〝南〟の方向には鳥居そのもの。
柱の根元にはバウムクーヘン状の円環柱が嵌め込んである。一見して台座・錘であるが。
磁石持ってうろうろした結果、そのバウムクーヘンが磁石であるらしい。
「これ磁石か……え?こんなでかい磁石作るってすごい高度な事じゃないのか?」
「磁鉄鉱って奴じゃないすか?」
「磁石って熱加えると磁力消えるんだぜ。この泥みたいな鉄から作ったとして、どうやってバウムクーヘンにしたんだ。焼かずに刀が作れるか?形になるか?」
マスターは鋼の原動機をコンコン叩いた。
やや上気した男達の会話を聞きながら、理絵子は磁石を持って周囲を歩く。
柱が磁石なら、それを立てた台座も恐らく磁石と推定されるからだ。磁石同士の方が固定力が強まるし、
桜井家で目を通した文献に寄れば、前述の香取神宮に太古に作られた鉄製の盾が納められている。すなわち、当代最高の技術による当代最高の成果物を神に捧げたのだ。
(現物)
(つづく)
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