桜井優子失踪事件【47】
【山4】
「構わないはずです。古代の流儀とは言え舗装されています。重量物の運搬を目論んだ物かと」
それがNGであったら、この道へ誘導されない。
バイクを置いて行けという示唆もない。
それどころか、そもそも原点、鉄へ向かう道。目論んだ重量物こそは鉄ではないのか。
「オーケー判った。龍、いいな」
「はいもちろん」
濡れた道を、ゆっくりと2台のバイクで登って行く。行く手は両側より斜面が迫り、冬枯れた灌木が尖った枝を広げ、〝道〟の上にもはみ出して覆い被さっている。それは一見すると通れないようにも見えたが。
近づいてみると、はみ出た枝がジグザグになっているだけで、乗員が首を振ったり頭を下げれば通れると判じた。実際には頭部や顔面まで枝が触れるが、フルフェイスのヘルメットなら痛くも痒くもない。
……バイクを置いていくとするなら、ヘルメットも置いていったであろう。ここを通るのに難儀したに相違ない。
「蓋然性の吟味って奴だね」
登与が言った。それは二人の間だけで通じる言い回しだ(理絵子には声として聞こえたが、隣のバイクからヘルメット越しに聞こえるわけもなく、実際にはテレパシーで飛ばしたと思われる)。
灌木地帯を抜けて更に登る。清紺は次第に流速を増し、すなわち応じて勾配が急になり、山の向こう側へ回り込み、日陰に入るとあからさまに気温が下がる。
色あせた鳥居が倒れている。
鳥居、従ってここから先が神域。
しかし倒れた鳥居をそのままに先を急ぐつもりはない。そんな共通認識が自然と4人に同時に芽生えた。
バイクを止める。
「台座とか近くにないか?」
マスターが言い、佐原龍太郎が倒れた鳥居へ近づく。
すると。
佐原龍太郎が下げていたネックレスが、目に見えぬ何かに捕まえられたように動きだし、衣服の下から飛び出そうとする。
「おおう、何だこりゃ?」
「理絵ちゃん!これは?」
佐原龍太郎が驚き、超常現象と感じたか、マスターが理絵子に同定を求める。
(つづく)
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