桜井優子失踪事件【46】
【山3】
お地蔵様より、姿勢を低く。
六地蔵の配置理由なんかどうでも良くて、お地蔵様には敬意をという原点のあり方で。
鬼骨山へ、通りたいのですが。
目を閉じて、お願いし、
目を開く。
二人は道を見た。
前述の小川が白く光っていた。姿勢を下げたことで太陽光の反射の仕方が変わり、白い一本の道となって奥へ伸びている。
これだ。
「この小川が道です」
「えっ?」
自信を持って答え、理絵子は確認に行く。六地蔵の奥手へ回り、流れに手を入れる。清らかな紺色の流れは、真冬の冷涼を伴っているかと思いきや、さにあらず存外に温かい。そして川床の茶色は土の色ではなく、手のひらでなぞると、やや粘り気を持った膜として手指に巻き付き、拭われたその下には、敷き詰められた石畳が現れた。
理絵子は手指に付いた茶色のねばねばを持ち上げて観察した。指を動かすと糸を引くが、例えばナメクジを触っているような、腐敗した有機物のそれのような、不快な感触はない。最も、水の清らかさから言えば、不快感が無くて納得なのだが。
「鉄だよ、それ」
登与が言った。
「え?」
「草の根なんかに住み着いた細菌が、水中の鉄分を酸化析出させるんだ。その酸化作用で生じる熱をエネルギー源にしてる。鉄は細菌の死によって草の根にドンドン付着していって鉄さびの玉になる。『豊葦原の中つ国』って記紀の表現があるでしょ?あれは、葦の根っこにたわわに実った鉄を豊かに産する、天と地の間の土地って意味なんだ」
つまりはバイオ製鉄。そして、川床の〝土色〟は、上流から流れ来、石畳の凹凸に捉えられ、降り積もり、膜状になった鉄さびの色。
石畳が古代の〝舗装〟であることは論を俟たないであろう。そこには僅かに高低差があるため、長い年月の間に地滑り地帯に湧く水の流路となったのだ。
逆に言えば、古代の鉄に繋がる道であることをも示してくれている。
「ありがとうございました」
理絵子は持たされたパンを1枚、お地蔵様にお供えし、仲間達と頭を下げた。
「これが道なのは判ったが、バイクで走っていいのかい?」
マスターが尋ねる。
(つづく)
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