桜井優子失踪事件【44】
【山1】
「旦那さんはそれで蛇塚を口にする連中は興味本位と判定してるわけですね」
マスターが言った。
「まぁその通りだな。あと無闇に霊感で探し出そうという輩もお断りだ。しかし君たちは違うらしい。いや急いでるところを済まなかった。鬼骨山への正しい道は……その西隣に岩肌が露出している山があるだろう。猫山と言うんだが。その……ここから見える反対側の斜面にある神社と言われている」
男性は見上げる景色を手指で指し示し、位置を説明した。来た道を一旦戻り、内房側へ少し走ると地蔵があって、その脇から細い道を辿るのだという。
「ただ、誰もそちらから行こうとした者、たどり着いた者はいないと聞くがね。お嬢さんがさっき口にした秘文に出て来る瓊は、その道を塞ぐのに使われたと言われているんだ。でも……昔はそれで済んだ話だが、今は精細な衛星写真をコンピュータで見られるそうだね。お陰で闇雲にたどり着こうとする輩でいっぱいでね。裏道というか文字通り邪道だな」
その手のウェブページは、お気に入りの場所に本の栞よろしく印(タグ)を付けて、紹介文や写真など付加できる。経路も書いてある可能性が高い。
であれば、携帯電話からネット検索すれば出たかも知れない。理絵子は思ったわけだが、それは逆に言えば、男性が指摘したように正当・本来のアクセスを無視する結果につながった可能性がある。
何か、意図して行動を制限し、しかし同時に導かれているような、気配というか雰囲気。
「なるべくしてなった」
登与がつぶやく。去来した想念をそのまま口にした、そんな感じ。
「行きましょう」
理絵子は言った。登与の言葉は恐らく正しい。
ただ、この先の展開は自分たちの意識・モチベーションに掛かっている。
いきなり確定形で結論や成り行きを示して事実が後から付いてくるのが超感覚の特徴で「超」感覚の所以だが。
この先は、動き方で変わる。結論は固まっていない。
「あの、ありがとうございました」
理絵子は言い、男性に頭を下げた。
「いいってことよ。来るべき時が来るまで守れ。我々に代々受け継がれてきた言葉だ。君たちは気持ちを尊重してくれた。たとえ来るべき時ではないのであっても、後悔はない。じゃあ」
男性は片手を上げると、自転車に乗り、元来た方向へ走り去った。
……何もない道の奥へ。
(つづく)
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