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【妖精エウリーの小さなお話】闇を齎す光【1】

(「齎す」は「もたらす」と読む)
 
 ビルや高層住宅のガラスに鳥が激突する。
 珍しいことでは無いかも知れません。鳥は視覚を頼りに飛ぶので、人間さんと同じく、ガラスや鏡を見逃すことがあります。
 ただ、特に高い建物があるわけでも、ガラスの多い建物があるわけでもないのに、特定の街区でそうした鳥の事故が多いとなると。
 妖精の身としては調査しないわけに行きません。
〈昨日はここだった〉
 言葉に起こすとこうなるセリフは、サウンド的には『カァ』です。私の目の前にいるのは、この近辺にねぐらを持つまだ若い雄のカラス。
 ここはコンクリート3階建てのアパート。その階段の下というか裏というか、自転車置き場にカラスが1羽。
 そして、良く見ると、自転車のサドルの上に、手のひらに載りそうなサイズの白装束の女が立っている。
 人間さんには異常な構図でしょう。でも真夏の日中、人間さん達が外へ出て来る気配はなく、少し大胆に動いても見られる心配はなさそうです。ちなみに、私たち妖精が人間さんの前に姿を見せないのは、人間さんが〝存在しない〟と決めているから。人間さんの意志に背くことは私たちに許されていません。最も、私は妖精の中でもギリシャ神話の〝ニンフ〟の血筋を引いた種族で、彼女達が神話の中で人間さんと共に暮らしていたように、人間サイズになることも出来るのですが。
〈見えなくなった。突然何も見えなくなった、って言ってた。これで前のゴミ捨ての日から3羽目だ。このままじゃ俺たち……〉
〈落ち着いて〉
 パニックになりそうな彼を私はなだめます。もちろん彼らは人語を解しませんので意志と意志の直接コミュニケーション、すなわち、テレパシー。
 彼から聞いたことをまとめます。
 
・悲鳴を聞いたので仲間達で助けに行った
・突然見えなくなって、激突して落ちたと言った
・声で群れまで誘導したが、3羽とも一両日中に死んだ
・場所はこのアパート、1ブロック向こうの単身アパート、北側にある自動車ディーラー
・いずれもここ数日のできごと。これまでにはなかったこと。
 
(つづく)

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