桜井優子失踪事件【51】
【鉄2】
「このダンゴムシたちを神が望んで住まわせているのであれば、私たちが住処を壊してはならない」
「なるほど」
男達は頷き、相談し、ロープを出してバイクで引っ張る策を見出した。
「こんな動力古代人はどうやって……」
佐原龍太郎が作業しながら訊く。ちなみに彼が受けてきたという講習は〝玉掛け〟という技術で、クレーンのフックに荷を吊る・下ろす作業だという。
「ここで役立つとはね」
バイクにロープを結んで引く。〝水の道〟では滑るので、枯れ野の上でエンジンを煽るが。
小枝で掘れるような土壌。タイヤは土を蹴上げて潜り込むばかり。
「ちょっと待って下さい」
理絵子は作業を止めて考える。これは正解ではない。それこそ古代の人たちはどうしたのか。
「引いてダメなら押してみな。違うか?」
マスターの意見に首を横に振る。埋めて隠してあるのは出ていて欲しくないからだ。つまり、上に出すことによって仕事する。
この場所には古代人の得た叡智の象徴として、自然が示す物理力の一つ、磁力を使ってある。
自然の叡智。どこかの万博のお題目。
「残りは重力、弱い相互作用、強い相互作用」
理絵子の考えを読んだ登与が言った。それは自然界の4つの力。但しこの中で〝相互作用〟2つは原子核回りの話。逆に言うと。
重力なら、古代人も使える。
目の前にある水の道こそ。
「バイクをそのまま道の上へ!」
理絵子は叫ぶような気持ちで言った。
「え、グリップが……」
更にタイヤが空回りするのではないかという男達の心配。
「違います。昔の人は重たい物をここに滑らせて引っ張ったんじゃないかと」
「つるべのオモリってことか」
佐原龍太郎の理解に理絵子は頷く。
すぐに水の道へバイクを移動させ、マスターがまたがり、そのまま重力任せに滑らせる。
(つづく)
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