桜井優子失踪事件【57】
【骨2】
「龍、『恐怖の報酬』って映画知ってるか?」
心配そうに車輪を眺める佐原龍太郎にマスターが訊いた。
往年の名画である。ニトログリセリンをトラックに積み、爆発させずに運びきれば高収入。
途中、今の自分たちと同様な細かい凹凸が続く路面に遭遇する。トラックは揺れるが。
「細かい凹凸は逆にぶっ飛ばせばイチイチ反応しなくなる」
その理屈には理絵子にも心当たりがあった。夏休みに自転車で急いでいた時、工事でアスファルト剥がされた砂利部分に勢い余って突っ込んだことがあったが、見た目の荒さに比してガタガタするでなく、パンクもなかった。同じようなことだろう。
斯くて男達はエンジンを煽った。
狭い洞窟路で速度を上げるのは命がけの冒険と言えた。
だが、髑髏が左右にあるお陰で、
その否が応でも、本能レベルで知っている姿の故に。
すなわち、顔面全体が光るが、眼窩だけ光を返さないが故に、壁の位置と、正しい道の選別に労することはなかった。
髑髏によって死から逃れている。それは明らかと言えた。
しばらく走ると、正面行く手、細い道の真ん中路上に首だけの先祖を認めた。
要するに頭蓋骨が〝置いて〟あり、こちらを見つめているのである。狭いので避けて通ることは出来ない。当然の如く、バイクを止める。
アイドリングに混じって水の音。
ヘッドライトの光芒に、流れ落ちる大量の水がキラキラと照らし出された。
〝道〟は暗渠の滝で途切れていた。
「髑髏さんに気付かなければ、水と一緒にどこかに落ちたわけだ」
「見慣れたというか……本物なのになぁ、何だかなぁ」
男達は口々に言い、髑髏に手を合わせ、他の先祖と同様、丁寧に壁面の台状の部分に載せた。
「で、行き止まり……かな?」
登与が傍らに立って言う。さぁこの先どうする。理絵子は錫杖を手に滝の裏の流れを見つめる。滝の中から飛び出せ?
この向こうが目的地だという認識はある。だが、流水を突っ切れという示唆はない。
案内役は風なのだから、風に訊くべき。
「これだけの流れを越えて風が吹き込むとは思わない」
「私もそう思う」
二人は感覚を使い、周囲を見回しながら少しずつ後ろへ戻る。必ずどこかに風の道があるはず。
黒髪よ、遙かなる女神達より受け継ぎし我らが黒髪よ、風の流れを伝えて。
(つづく)
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