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桜井優子失踪事件【56】

【骨1】
 
「これは、バイクでトンネルぶち抜け、だろうな」
 理絵子達が頷く必要もなかった。
 ヘルメットをかぶって原動機にまたがる。
 ヘッドライトの光芒を洞窟に向ける。
 夥しい貝がらと、人骨。
「おおっと」
 表現は悪いが、ゴロゴロ、している。
「〝行旅死亡人〟か?」
 マスターが言い、ライダー用グローブを手にしたまま頭骨に両手を合わせて拝む。行旅死亡人(こうりょしぼうにん)とは〝官報〟に載る身元不明遺体情報のことである。人知れぬ自殺者、行き倒れさん。稀に過去の放棄された墓地が掘り返された事例も出る。遺体である以上、検分が入るのだ。最もその結果〝死亡したのは明治期以前と推定〟などと掲載されるわけだが。
Doaho
(似た実例:2011年5月27日官報より)
「縄文時代と思います。眼窩(がんか)が四角くて鼻が高いので」
 登与が頭骨を眺めて言った。
 中学生の女の子が、化石出土品のレベルとは言え、本物の頭蓋骨を昆虫か小動物の観察の如きフィーリングで冷静に見ているというのも奇異な眺めではあるが。
 現時点では、理絵子が節足動物に対して冷静なのと同様、とだけ書いておく。及び、ここに、〝人々〟がこうして並んでいる意図も、節足動物たちと同じ。
「お騒がせすることと、我らがあなた方の住処を通りますこと、お許し下さい」
 理絵子は洞窟に向かって立ち、願い出た。
 すると、髪の毛が後ろから前へ、すなわち、洞窟へ流れ込む方向で吹いた。
 追い風。許可の意と捉えて良かろう。
「行きましょう」
 エンジンが猛る。
 中へ入り、温度が下がって湿気がまとわりつく。操作を誤れば壁に接触する隘路であり、細かい凹凸が激しく、バイクは終わらない地震のように徹底的に揺れた。
「サスが壊れそうだ」
 佐原龍太郎が一旦停止し、嘆くように言った。サスはサスペンション。バイクの衝撃吸収機構が凹凸で破損しそうだというのである。
 彼女達も尻が痛かろうと小休止する。ライトが照らす壁面のそこここで永遠の眠りに付いた人々が見守っている。
 不思議な物で、死と恐怖を象徴するはずの髑髏が逆に優しく見ているような気になる。暗渠に髑髏。最高に不気味なシチュエーションのはずだが、単に見慣れただけか。
 
(つづく)


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