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桜井優子失踪事件【54】

【鉄5】
 
 斜面と言うよりは崖と称した方が近いかも知れぬ。眼前には見上げるような岩がゴロゴロあり、その崖に近い斜面上方にもごつごつした岩場の存在が確認できる。登攀するにはロッククライミングの技術を要しよう。……確かに行者は錫杖を頼りに深山幽谷を跋渉するが、今この状況は自分たちにそれを求めているのだろうか。
「バイクは?……置いて行くしかないだろうな」
 マスターが残念そうに呟く。
 理絵子は結論を保留する。錫杖が自分の獲物として持たされたものなら。
 バイクの方は男達に許された、或いは依頼したものと言って良いだろう。そしてそれは、それなりの速度で移動することと、運搬が任務。
 バイクを置いて行く必要は恐らく無い。いやむしろ存分に活用されるべき。
 同様の流れで高千穂登与の神代知識の総合力はまだ必要であるはず。
「私個人は貝がらが引っ掛かるんだ。貝がらの防腐効果を知っているということは、縄文遺構の貝塚を知っているということでしょう。つまりこの近くに縄文時代の生活址があるんじゃないか。黒野さんが感じているように、全てヒントと活用が運命づけられているなら、それがヒントとして用意されている、気がする」
 バイクを使える。縄文時代の生活に関わる。
 期せずして二人見つめ合って解を探す。二人の長い髪の毛がゆっくり揺れ、足もとを湿った冷たい気流が這うように流れる。
 今こそ二人の全てを合わせる時だと感じる。露骨に超感覚で意図を探り合い怒鳴り合ったあの日のことも、逆に言えば双方腹の中残らず探り合ったわけで、相互の完全理解を経て今日のためかという気さえする。
 急斜面を背後にした登与の髪が背中から胸側へ揺れ。
 彼女を見つめ、斜面を正面に捉える理絵子の髪の毛が右から左へ揺れる。
「えっ!?」
 二人は気付いた。なぜ私たちの髪の毛揺れ方が違う。
 特に登与は背後から。
 気流が斜面を下りてきている?否、髪は揺れるが、斜面の枯れ草は微動だにせず。
 草は動かないが風は来る。
 風はこの眼前にゴロゴロしている巨人のジャガイモみたいな岩の向こうから来ている?
「岩の向こうが穴ならば」
「あっ!」
 理絵子の気付きに登与が小さく叫ぶ。縄文人はそもそも穴居民族。
 貝の防腐効果を秘密とするため、後世その穴住居を意図して塞いだとしたら。
「龍太郎さん。この杖でこの岩をテコで動かそうとするなら、最適な場所はどこ?」
 
(つづく)

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