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桜井優子失踪事件【53】

【鉄4】
 
「なんか、ぞくぞくするな……凄みのある美少女って表現があるけど、巫女的な部分がにじみ出てるんだろうな。神懸かりってこういう状態なんだろうな」
 すごいセリフだが、照れるにせよ肯定するにせよ、何らかの反応をマスターへ返す必要はないと理絵子は思った。
 これは間違いなく、自分が持てという導きなのだ。
 友を救い出すために。
「古代の人、頭良すぎる」
 佐原龍太郎の声が出るまで、マスターは理絵子から目が離せなかった。
 蕩々と流れていた〝道〟の水流がすっかり消えている。
 佐原龍太郎の見立てでは、鈴生りジャガイモ転じて錫杖が、何らかのつっかい棒として作用しており、抜いたことで、土中でカラクリが動いて水路が変化、〝道〟が現れると共に、沈んでいた正規の鳥居の台座が浮き上がったのではないか。
「鉄が水で浮くって?」
「タンカーとか現代船は鉄じゃないすか。あーいう形に作れば浮くって知ってたんじゃないですか?」
「船はそうだが……でもまさか。何千年前だろ?」
 そこで男達の会話に登与が入る。
「日本武尊は海を渡ってきました。船の知識はあったと思います。それに、この手の鈴生り鉄には中が空っぽでカラカラ音がするものがあるんです。それこそ鈴です。ガランドウですから、浮く物もあったはず」
 登与は続けて。
「貝がらは土壌の酸化防止と思います。それこそ千葉の加曽利(かそり)貝塚から縄文人の骨が出ていますが、貝がらと共に埋葬されていたため残ったのだそうです。古代の人たちは、貝がらで鉄がさびるのを抑制できると知っていた。或いは、人骨が残っていることを知った上で、神の顕現である鉄も同様に残ると考え、貝がらと共に龍太郎さんの言うシカケを作った」
「なるほど」
 男達は納得したようである。二人で鳥居を持ち、土の中から顔を出した台座の上へ。
 磁石同士吸い付いて固定は容易。そして、鳥居本体を載せたところで、そのまま泥水の中に少し沈む。これで、鳥居は水の中に立っている形。……それこそ香取や鹿島が創設された頃の姿、と理絵子は登与の認識を通じて知った。
 すなわち、これはその構成のミニチュアなのだ。そして、鳥居を通して見えるのは、急峻な斜面で構成された山。
 
(つづく)

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