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桜井優子失踪事件【55】

【鉄6】
 
 理絵子は錫杖を振って問うた。この杖がテコになる。
「え?……ああ、なるほど、ちょっと待ってくれよ。応用だな。バランスを意図して崩せばいい」
 〝玉掛け〟で求めているのは安定して荷を作り、バランスを崩さず上げ下ろしできること。
「しかしいくらテコで鉄の棒とは言え……人力で動かすにはデカすぎないか?」
「マサ兄(にい)、岩をダイレクトに動かす必要はないです。荷崩れってのは何かの些細なきっかけで始まって、後は質量と重力で増大するもの」
 佐原龍太郎は岩の組み合わせをあちこち見回し、人の頭ほどの小岩がつっかい棒の役目を果たし、大きな岩が転げ落ちるのを防いでいるというメカニズムを見出した。
 従って、岩そのものではなく、小岩を弾き飛ばせば大岩は転げ落ちる。
「……こうすれば支点・力点・作用点全部揃う」
 杖を差す位置も確定した。
 大岩が転げてバイクを潰されては困るので、バイクを鳥居より高い位置へ移動する。
 大岩が下の道まで行くという懸念は、土壌の柔らかさと先の灌木群の存在故に感じなかった。
「やるか」
「はい」
 錫杖は別の岩を介して(支点)、小岩(作用点)を斜面下方から上へ弾く形。人間は斜面を利用して加速しながら錫杖の鈴生り部分にぶら下がる。
Teko
 万全を期すため体重のある男二人でタイミング合わせて斜面からジャンプ。
 小岩を弾いたら、大岩は恐ろしいような音を立てて、しかし大きさと想定される重量からは遙かに軽々と斜面を転がり、鳥居をくぐり、跳ねて飛んで落ちて、バイクのタイヤで掘れた跡にクレーターを作り、この沢谷の反対側斜面へ飛び、少し登り掛けて戻り、そのクレーターにゴルフのカップインよろしくはまり込んで止まった。
 ゴルフと書いたが巨人のそれのようなほぼ球体の岩である。
〝瓊は、その道を塞ぐのに使われた〟
 先の男性が教えてくれた伝承は真(まこと)であった。
 そして、理絵子は錫杖を再び手にして、現れた状況に立ち止まり、自らの髪を流す。
 岩の外れた急斜面からサーッと気流が流れ込む。
 洞窟である。真っ暗で先は見えないが、風が出て来る。それは当然、入ってくるところがある、どこかに繋がっている証拠。
 そして、洞窟・トンネル、すなわち〝中抜け〟はこの冒険で始終つきまとっていること。
 真実は、この中にある。
 
(つづく)


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