桜井優子失踪事件【61】
【骨6】
議論する二人を、鬼たる彼はおろおろしながら交互に見ている。彼にとって、自分たちの反応は想定外であり、どう対処するのが適切か思いが至らないようである。ただ、彼が自分たちを〝メス〟と認識し〝庇護すべき〟と思っていることは理解できた。
そして、その心理は、遺伝子レベルの優しさ、気弱さに根ざしていることも。
ネアンデルタールは死者に花を手向ける心の持ち主とされる。
まさか、されど、ただ。
「縄文人と現代人は違うもんね」
理絵子はまず言った。
「そして現代人の遺伝子には縄文人の要素が含まれている。縄文人の一部にネアンデルタールの部分があっても不思議じゃない」
少なくとも、その可能性は否定されるべきではない。
鬼が理絵子の手にした〝杖〟に気付く。
〈それを持つのに何故自分を攻撃しない。何故自分の思いが判る〉
鬼の抱いたイメージ。杖を持つ者は超常の能力で自分たちを痛めつける者達。
錫杖を携えていたのは役行者……つまり密教によって超能力を得た宗教者。
「鬼退治、か」
外見が異なり言語を発さぬ存在は、古代において恐怖を呼んだであろう。
そして、行者を呼び、超能力に超能力で対峙した。
残っていないからあり得ない。確たる物は何もない。
「一寸法師の針は錫杖のカリカチュアライズとか?」
「彼に敵意を感じないのと、彼の証言や昔話とが食い違うのは何故?」
彼は優しいのに後世の者達は攻撃したのか。
「途中で変わったとか。縄文の認識と新時代の認識の違い」
これに対しては彼が答えてくれた。
〈支配を望む集団が来て、〝力〟持つ者を唆し、我々を方々で殺した。ただ、ここのように一部はかくまってくれた〉
彼は一種のシールドバリア、制限のような物を解除してくれた。
すなわち結界である。
バイクのエンジンが息を吹き返し、前照灯が点り、
走ってきた時よりも多くの物を照らし出して二人に見せた。
その光景に二人が絶句していると、ライトの光芒が揺らめき、男達の足音が聞こえた。
「ああ、いたいた。無事だったか……ゴツいあんちゃんいるな」
二人の娘と偉丈夫。その光景にマスターが思い浮かべたのは、光剣振り回すシーンが有名な宇宙SFに出てくる異星人メカニックであった。
(つづく)
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