総武快速passing love ~稲毛~
君を見たのは線路を挟んだ向こう側。各駅停車のプラットホーム。
夏の日差しを浴びて、まぶしい白い制服で、君は立っていた。
暑いのに、屋根のないホームの端で、君は照らされて立っていた。
ただ、それだけ、だったのに。
僕はその日から君を見つめるだけのために快速電車に乗った。
各駅停車に乗ればいいのに。
同じホームに降りればいいのに、快速電車に乗った。
後ろ姿を見ただけなのに。
横顔を見ただけなのに。
そして陽光に輝く光を見ただけなのに。
言葉も交わさず名前も知らず、なのに。
雨の日君をホームで見かけた。
傘もささず君はホームに立っていた。
濡れたまま、濡れるがままに君は立っていた。
僕は快速電車を飛び降りた。
階段を駆け下りて、階段を駆け上がった。
ホームの屋根の途切れるところまで。
でも、僕はそこから先へ進めなかった。
君の目が赤かった。
何か封書を握りしめ、君は鈍く銀色に光る濡れた線路を見ていた。
でも、僕は何も言えなかった。
翌日プラットホームに君の姿は無かった。
僕はもう一度快速電車を降りて、今度こそは屋根のないところへ歩いて行った。
「いきなりすいません。いつもあなたを電車の中から見ていたもので、つい」
それは口にする機会の無かった言葉。口にしたかった、言葉。
でも、そこには今、誰もいない。
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