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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-1-

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~第1部~
 


 
 きっかけは、東京の知り合い宅で出された茶器である。
「どこのだ、って言ったっけ」
 インターネット経由で繋がった、パソコンモニタの向こうに向かって、彼女は問うた。
『常滑だよ、と、こ、な、め』
 その東京の知り合いがモニタの中で答え、動画IPメッセンジャーでURLが送られてくる。アクセスすると地図。
「これって例の新空港……」
『そだよ。お礼のついで……にはちょうどいいんじゃないの?それに……だったらアレだ。雨降る流れ星も、岬の先っぽまで行って見てくるといい。空港が何かイベント組むかも知れないし』
「判った」
 そして今、彼女は名古屋鉄道(名鉄)の、空港行き特急電車の車中にある。日本型電車には乗り慣れた彼女であるが、立ち客用のつかみ棒など、サーモンピンク色を多用したこの車輛の配色には、一瞬我が目を疑うほどのけばけばしさを感じた。だがすぐに、色覚ハンディのある乗客を想定したものと気付き、納得。
 車内は走行音以外静かである。乗客は多くはなく、彼女を含めちらほら立ち席がある程度。時節は11月半ば過ぎ、金曜の昼下がりであり、ガラス越しの西日は心地よくやわらかい。大荷物片手の旅行者が、ここまでの移動で既に疲れたか、座席からガラスに寄りかかり、ウトウトしている。ちなみに、東京の言う“雨降る流れ星”とは、翌早暁に予報されている、“しし座流星群”のことを指す。車内ドア上、電光ニュースでもその旨のニュースが流れる。穏和な車内といい、流れ星がニュースになるこの国は平和だ、とつくづく思う。
 外に目を向ける。電車は郊外の住宅地を快調に飛ばしている。やがて駅を通過し、走行音が変わり、コンクリートの高架橋に駆け上がり、速度を落として駅へ到着。
 
(つづく)

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