グッバイ・レッド・ブリック・ロード-10-
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他方、父は仰臥したまま、追いすがるかのように、レムリアが触れていない方の手を、中空へと伸ばした。この種の追われる、追いかける類の夢は、現実でも追い込まれている人、せっぱ詰まった人に、良く現れる。
脈が加速する。この身体で心臓に掛けて良い負担とは思えない。レムリアは伸ばされた手を掴み、同時に脈を診ていた手を離して、男性の頬にそっと触れた。
男性がレムリアの手をぎゅっと握り返してくる。病顔に小さな笑みが宿り、伸ばされた手が弛緩する。
レムリアは男性の手を持って布団へ下ろす。頬にはまだ触れたまま。
寝息を確認してから、ゆっくりと頬の手を離す。
「よかった……」
女性がため息を付き、胸に手を当てる。
と、真由が磁石の反発を思わせる勢いで唐突に立ち上がり、玄関へ走って靴を履き、ドアを開け、建物全体がビリビリ言うほどえらい勢いで玄関ドアを閉め、飛び出して行った。
「あっ、真由さん……」
女性が呼び止めようとした時には、既に庭から走り出た後。
女性は力なく向き直り、流しから黒く窯変(ようへん:窯の中で化学反応によって釉薬が変色すること)した湯飲みを盆に載せ、レムリアの元へ持ってきた。
「ごめんなさい、いきなり失礼なことで」
「いいえ。ただ、真由ちゃんの反発は自我防衛機制だと思います」
レムリアは言った。
「じ……が?……」
「傷つく、と感じた心が、傷つかないようにと本能的に取る、回避行動のことです」
心当たりは?とは問わない。気にはなるが、今の自分の立場では、訊くにはまだ早い。
出された湯飲みを手にする。それは書いたように黒い窯変で、それはそれで東京で見たものと同じなのだが。
何か違う。見た目は良いが、惹き付けられる何かがない。“よく見えるように作りました”。
(本当に常滑で買って来てたりする)
(つづく)
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