グッバイ・レッド・ブリック・ロード-11-
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「それは、この人の作品です」
レムリアが湯飲みをじろじろ眺めていると知り、女性は言った。
「そうですか」
茶を一口。自分を見る女性の目が、津々たる興味に満ちていることを感じ取る。
女性が問う。
「陶器お好きなんですか?」
「母親が東洋趣味に目覚めたようで、ちょっと買って帰ろうと」
「それで常滑へ」
「ええ。直売もしていただける工房はないかと」
「そうですか。……あの、そういうわけで、それ、この人のなんですけど、率直にいかがですか?」
女性は少し笑みを浮かべて訊いた。先ほどと同様、今この状態でする会話か?とも思うが。
訊かれたからには答えることにする。素人が評論するのはおこがましい気がするが、こういうのは直感の囁くままに答えた方が良いと思うので。
「形や色合いはいいと思うんです。良くできてる。ただ……」
「ただ?」
「ただ、それだけ、なんです」
「え……」
背後に人の気配、と感じて程なく、ガラガラと玄関隣接の引き戸が開かれた。
作務衣に白いあごひげの老男性。いかにも芸術家という風体。険しい表情。
……この人が、この男性を叱責していた、と、レムリアは判じた。
すると、老男性は、レムリアの姿を見るや、意表をつかれた、という目をして見せ、笑みとともにスッと玄関先の床面に正座した。
「これはこれはようこそ。お見苦しい所を申し訳ない。私は窯の主で川俣(かわまた)と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私は相原姫子(あいはらひめこ)と申します。突然お邪魔致しましてすいません」
レムリアは返した。女性が驚いた顔をしているが仕方あるまい。だが看護婦で本名はこうで、なんてのはまだるこしいので、必要に迫られない限り基本的には語らない。ちなみに、相原というのは東京の知り合いの姓である。『22歳の男がローティーンの女の子連れ回して“友人です”では不要な憶測を生む』ので、二人で行動する際には、従妹ということにして、こう名乗っている次第。
(つづく)
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