グッバイ・レッド・ブリック・ロード-30-
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大人の都合を押しつけるなど、“大人”のすることではない。
と、背後で引き戸が開く。開く速度と力感から真由ではない。
窯の主。
「先生……」
布団の主は、レムリアの背後に立つ老師の顔に目を向けた。
レムリアは主導権を老師に渡した。声を荒げたやりとりに立ち上がったと判ったからだ。
「お前の作品にはお前の意気込みを感じないのだよ」
父親は目をそらした。
「その萎縮の理由を考えたことがあるか」
娘をドタバタに巻き込んだという引け目。それがレムリアが把握している問いの答え。更には、作陶が理解を得ての活動ではないから。
要は全身全霊で打ち込める状況にないのだ。一般に創作・芸術に雑念が混入すると、作品には魂が入らない。
最も、この男性の場合、それだけではないのだが。
「整える技術は持っている。それは認める。だがその技術を駆使するココが、なっておらん」
老師は“ココ”と、自らの胸板を叩いた。そして。
「空っぽの心で作った作品に魂は宿らない」
言い捨て、去った。
引き戸が閉まるのを見届け、父親がため息。
まずい、とレムリアは思った。老師は恐らく原因を内省で突き止め、再度前を見よ、と鼓舞するつもりで言ったのだろうが。
言葉と流れだけ取れば、見知らぬ娘との連続攻撃……父親は自らに打たれた烙印、と受け取ったようだ。
これでは逆効果。そしてこの受け取り方……悪い方に考える……は、鬱傾向の兆候。
要は心がすり減ってしまっている。
「集合展はいつですか?」
レムリアは声音を明るくして尋ねた。
「次の木曜……です。それまでに先生に作品を認めて頂けない場合、私たちはここにいられなくなります」
父親はしゃがれた声で言った。小娘相手に敬語なのは、自信喪失の表れ。そして、いられないというのは、先の麻子と老師とのやりとりを考え合わせると、集合展に出せないなら、居候ならず追い出す、というようなことだろう。
(つづく)
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