グッバイ・レッド・ブリック・ロード-4-
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「いらっしゃいませ」
声を掛けられて我に返ると、前掛けの女性がニコニコ顔で自分を見ている。
そこは元の工房を買い取ったと見られるお店。店頭には陶器と無関係な小物や装飾品がずらりと並ぶ。そしてカンバン代わりであろうか、路上に赤土色した小型の土管が立ててあり、ペンキ書きで“ケーキと紅茶はいかがですか”。
……悪いけどそれ、“常滑”である必要、全くないと思う。
だがしかし、行く手の道はそんなのばかりであるようだ。振り返ればかなりの高台。眼下には新旧混交の家々が並び、海の向こうを離陸して行くジェットライナー。
他方、散歩道の行く手は、というと、赤レンガの煙突が幾つか見えるが、火を入れている様子はなく、向こうの店では、女性二人組の旅行者が、商品を手に談笑中。
ガシャン、という陶器の割れる音が聞こえたのはその時。
しかし、聞こえたのは恐らく彼女だけ。常人の聴覚で聞き取るのは不可能だ。
なぜなら、その音は、“心”で聞こえた音。更に詳しくは、心が受けた強い衝撃を、その原因となった音と共に、心理で直接感じ取ったもの、だからだ。
超常感覚的知覚、テレパシー。彼女が持つ特殊能力に起因するもの。
「……どうかしたの?」
そのお店の女性が声をかけた。彼女はひょっとすると、反射的に驚いた、或いは小さく声を発したかも知れない。店の人としては、通りすがりの女の子に軽く声を掛けただけなのに、そんな反応をされたら、それはそれで驚くだろう。
「いえ、用事を思い出して……すいません」
自分を気にしてくれたのに、場違いの店とか……。ちょっと申し訳ない。
いたたまれないような気持ちも手伝い、来た道をとって返す。その“気持ち”が発せられたのはここから100メートルほど。早足で下る小径は、他の観光客がしげしげ眺め、或いはカメラ構えるあたり、有名なのであろう。足元と壁に輪切りの土管がびっしり植わっている。
(つづく)
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