グッバイ・レッド・ブリック・ロード-5-
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“散歩道”を外れる。階段を下り、少し行くと、見逃してしまいそうな細い路地。ベビーカーですら通るのは難儀であろうと思われる程。
“気持ち”はその奥からであるらしい。息せき切って出所を追う。アホかと思う向きもあろう。実際彼女自身、何を必死にこうしてその場に行こうとするのか、疑問に思うことがある。“傷ついた心理”に強く反応してしまうのは、もはや半分本能的とさえ言える。もちろん、そんなのこと一々気にしていたらキリが無いのだが、重々判っているのだが、知らぬ振りは後々罪悪感で悩むだけなので、それよりは、とつい足を向けてしまう。
「……やる気あるのかお前」
叱責の声。怒鳴り声でこそ無いが、もの言いの調子はきつい。これはテレパシーではなく、耳で聞き取れた物。
叱責されているのは、父親というイメージの男性。叱責しているのは更に年上の男性。詫びる声。頭を下げるその姿勢は直立不動。その動作の影で落胆する心理。引き裂かれるプライド。これはテレパシーで把握した状況。
現場は近そうである。感じながら路地を行くと、視界が開けた。
作陶工房であることはすぐに判じた。窯とおぼしき、かまぼこ型に整形され、煙突を立てた土壁の構造物があり、平屋建ての建物と直結。
建物の前の庭では、汚れた前掛けをした、眼鏡の男性が、バラバラになった陶器片を拾い集めている。
そのしょげた表情。叱責されていた男性であろう。
思い詰めているらしく、角ぶち眼鏡の目線はうつろ。一旦拾い、手に積み上げた陶器片を、再度ガシャガシャと落とす。
見てらんない。
「あ、すいません……」
拾うのを手伝う彼女に、男性は少々過ぎてから気付き、ぼんやりとした口調で言った。
その声に、彼女は心臓のあたりがズキッと痛む。油切れした機械のような、覇気のない声音は、傷ついた心の証。しかもよく見れば頭髪には白髪が目立ち、フケが多く、健康清潔に気を付けている様子ではない。そういう方面に気を回す余裕を持った心理状態ではない。
(つづく)
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