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2010年9月 6日 (月)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-6-

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 それどころか。
 男性の顔色に彼女はハッと気付いた。
 ……倒れる。
 果たして男性は、スイッチが切れたように白目を剥き、糸の切れた操り人形のように、力が抜け、倒れ込んだ。
 彼女は手をさしのべたが、わずかに遅れたうえ、少女の細腕で大の男を支えるには能わず、散らばった陶器片で男性の額に擦過傷が生ずる。
 顔から外れ、土の上に転がる眼鏡。
「ちょっとすいません、どなたかいらっしゃいませんか!」
 彼女は叫び、座り込んで額の傷を手で押さえ、男性の手首の脈を取る。
 


 
 畳の上、延べられた布団に仰臥している男性。
 懇々と眠るその目の下には、どす黒く隈があり、頬はこけ、文字通りの無精ひげが、その見るからに不健康な顔立ちを更に不健康に見せている。
 布団を挟んで、向き合って座するのは、彼女と、
 困惑した面持ちで男性を覗き込む、やつれた感じの若い女性。
 男性の妻なのだろう、普通に考えて。相当年の差はあるが。
 ピピピピ、と電子音。
 彼女は眠る男性の布団に手を入れ、電子体温計を取り出した。
 デジタルの表示は39.5。
「こんなに……」
 女性がため息。
「この発熱は病気と言うより極度の疲労とストレス、栄養不良に伴うものと思います。まずこのまま休まれて水分を取り、それでも変化が無いようなら、やはりお医者様に懸かることにしましょう。そして消化が良くて栄養のあるものを口にされること。ここ数日、満足に食事を取っていらっしゃいませんね」
 体温計をオフにする。医者に診せた方が確実だろうが、お金が……とかでイヤだと言うんだから仕方がない。とはいえ自分が“診察と決断”を下すわけにも行かぬ。結果の妥協点が、少し様子を見てから、だ。最も、同じ状態の人々はこれまでもよく見ているから、間違いないだろうとは思うが。
 
(つづく)

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