桜井優子失踪事件【64】
【地3】
もう一人黒髪の娘がいて、錫杖の娘の傍らに片ひざを突いて控えている。
娘達の背後には肩で息をする毛むくじゃらの偉丈夫。そして男が二人。
控えていた黒髪の娘が動く。気を失った娘に寄り添い、くしゃくしゃのセーラーをスッと被せる。
その持ち上げたセーラーの下で、医療用の小瓶がコロリと転がる。注射の針を直接刺して中の薬を吸い出すあれだ。
ラベルには〝モルヒネ〟……それは、事の主犯が誰かを物語っていた。
中身は空である。使い果たしたので大麻あたりの煙を満たした。そんなところか。大麻覚醒剤が街中で手軽に買えるとはニュースで聞くこと。……最もそんな具体性はどうでも良いのだが。ただ、そうと判っただけの話。
「彼女は任されたから」
登与の言葉に理絵子は何も言わず、洞窟から前に進み出、祠の脇に立った。
驚愕の目と対峙する。容姿の描写などしたくはない。人間ここまで下品下劣に落ちるものなのかという醜悪な者どもだ。烏合の衆という言葉で片付けておく。
「お久しぶりだね岩村さんよマサくんよ」
金のネックレスをした、血走った目の男が言い、口の端で笑った。
すなわち、マスターの存在が顔で判る。対し、マスターの抱いた印象は著しく悪い。
「気安く呼ぶな虫酸が走る。チンピラの金魚のクソは引っ込んで排気ガスでも吸っとけ」
「おっとそんな強がり言っていいのかなマサくん」
「マサくん今日はゴリラが一緒かい。ついにゴリラ手なずけるまで進化したか、え?凶暴原始人さん」
烏合の者どもはへらへらと軽口を叩きながらにじり寄る。
信じがたい光景、という印象を佐原龍太郎が抱いていると判る。その理由……マスター、岩村正樹は一人の人生を暴力で破壊し、その償いを誓った存在。理絵子の父親は警察官としてその事件に関わり、故に理絵子とマスターにはつながりがあるのだ。
そして、その過去は逆に、この野卑でゲスの集団には、恐怖の伝説となって伝わっていた、はずなのだ。
それが、恐れることなく、次第に距離を縮めてくる。
裏打ちする何かがあるのだ。
「奴の組織のお面々だよ。昭走会(しょうそうかい)とか言ったっけな。ウチを追われて入り込んで、札びら切ってお山の大将」
対するマスターも微動だにせず解説する。それはそれで自信があるから。暴力には暴力を用意……男性原理そのものである。
(つづく)
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