桜井優子失踪事件【63】
【地2】
感じたままを書くなれば、充満している煙、横たわっている下着姿。
この向こうは祠である。この縄文地下都市を神の領域として、その入り口に祠を建てて……容易に想像が付く。その祠に優子横たえて何をしている。
〈ここを開ければ中に入れるが、お前たち狂う。オレ判る。オレたちの祖先、煙で狂って超能力使えなくなった〉
狂う煙。
「麻薬だね」
登与が即答した。古来、巫女や託宣の受託者は、神々との交信を求めて精神をトランス状態に持ち込むため、麻薬の煙を使うことがままあった。
つまり、優子を。
理絵子は、切れた。
あらゆるものが、自分の中で、音を立てて、切れた。
「うわあああああああっ!」
怒りは自分自身御せないような大きな叫び声と、爆発するような破壊の衝動を呼び込んだ。まるで……黄泉に落ちた女神イザナミが我が身に降った(くだった)ようだった。
〝ぶちこわせ〟
呼応して。
雄々しい猛獣の雄叫びを上げたのは、他でもない鬼たる彼であった。
彼は彼で扉がぶるぶると震える程の大音声(だいおんじょう)をあげると、戸板と壁のすき間に指を差し入れ、扉を両の手で掴んだ。腕の筋肉が文字通り音を立て、隆と盛り上がり、体毛が波打った。
そのまま持ち上げる。巧妙に嵌めあわされた木々が割れ、雷のような音を立て、祠の上屋が床から引きはがされて行く。
それは彼が今、女神に随行する破壊者として、女神の命を受け、その意志を体現する存在となったことを意味した。
超能力を得た長寿巨人のうち、魔の側に与したのが鬼。
女神巫女の側に味方したのがだいだらぼっち。すなわち彼こそは。
そして怒号一声。祠の上屋は床板より下部を残し、日暮れた空へ高々と舞い上がった。充満していた煙が尾を引いて、有様はさながらロケット発射。
祠が消滅したことで、洞窟都市と空気の出入りが生じ、気圧差から風が吹く。
横たわる友を隠していた煙は、その風が吹き払った。
がしゃんと音を立てて上屋が落下し、舞い上がる土埃の向こうに驚愕の目が並ぶ。男が5名。
対しこちらは、錫杖を持ち、炎のような目をし、炎のように揺らめき逆立つ髪の毛の娘。
(つづく)
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