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桜井優子失踪事件【62】

【地1】
 
 そして。二人が絶句した光景。
「これは」
 水分か、光反射性の細菌か判らぬ。どちらにせよバイクのライトが天井によって反射され、照明として作用し、一帯を薄暮に浮かび上がらせている。
 そこは人間サイズの蟻の巣を思わせる、通路と居住スペースの連なりである。すなわち、洞窟都市。
 バイクで走ってきたその道こそは、この洞窟都市のメインストリート。
〈お前たち、荒らさない〉
「ええ、私たちは友達を助けに来ただけです」
〈荒らす者、外にいる〉
 荒らす者……その、踏み荒らすことを躊躇しない暴力。すなわち。
「そこへ行きたい。道はある?」
 鬼は歩き出した。遺骸が横たわり、割れ砕けた土器が転がる居住スペースの一つに入り、奥の暗闇へと歩を進める。
「こっちみたいです。ちなみにこの方は私たちのご先祖さんっぽいです」
 理絵子はさらりと説明を加え、男達に手招きした。
 中は真の暗黒である。だが、鬼は身体で覚えているのか、コウモリばりに音で断じるのか、躊躇せず入って行く。
 対し超感覚の自分たちはどうとでもなるが、男達はどうしよう。さすがにバイクを持ち込むのは難しいが。
「今日び喫煙者の唯一役に立つところか。脅かしたらごめんなさいよご先祖さん」
 男二人はそれぞれ手にしたライターを点火した。
 鬼は驚愕の意を寄越した。着火する超能力をその筋の用語でパイロキネシスと言うが、その一種と思ったようである。ちなみに密教の護摩焚きは本来念力で着火する。……その位の能力がないと祈祷願掛けなど成就しない。
〈お前たち、強い〉
 立ち止まり、振り返り、彼はまた歩きだし、行く手に木の板が現れた。
 扉である。後世の人間が製作して設えたもの。
 答えが、友が、その向こうにあると理絵子は知った。
 しかし……変わらず彼女の意識を拾わない。
〈強いが、この向こうは狂わせる煙〉
 鬼の認識、感じない優子の意識。
 尋常ならざる事態の存在。理絵子はテレパシーを使う。
 この向こうで起こっていること。
 
(つづく)

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