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2010年10月 1日 (金)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-31-

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「一旦、離れません?創作から」
 これに再び麻子が鋭く反応した。
「あなた何様のつもりで……」
「思い詰めすぎなんです。それから私ひどいこと言いましたがその正体、『これだったら合格って言ってもらえるかな?』と思いながら作ってませんか?」
 レムリアは言った。自分が“それだけではない”と感じた中身はこれである。
 にしても自分は小悪魔だとつくづく思う。突き落としておいて蜘蛛の糸を垂らす……似たようなことを釈迦がしているが、自分の場合は間違いなく悪魔だ。
 父親はオジギソウが首をもたげるような緩慢な動きで、ゆっくりとレムリアに目を向けた。
「おっしゃる通りです」
「それがあなたの意志の反映だとは私には思えません。だから、“よくできてるけど、それだけ”なんです」
 ここまで言って、ようやく、麻子が瞠目を見せた。やっと小娘の真意が判ったのだ。
 赤くなってうつむく。そして立ち上がり。
「あのあたし晩のお買い物に……」
「いや、いい」
 父親は麻子を制した。
「え?」
「この彼女の言う通りかも知れない。私はあまりにも視野が狭くなりすぎた……。お嬢さん。助けて頂いたお礼だ。そこの空港においしいエビフライを出す店があるんだが、食べに行かないかな。真由を連れ戻してくれたのも彼女のおかげだろう。みんなで行こうじゃないか」
 レムリアは手をパチンと鳴らして笑顔を作った。
「それ真由ちゃん喜びますよ。私呼んできますね」
 場を立ち、彼女や老師が出入りした引き戸を開く。
 渡り廊下。工房は離れの建屋ということか。
 引き戸を閉める。途端にひんやりした空気の動きが止まり、時間までもが止まっているよう。土壁に木の屋根という古い作りであり、はめ込まれた木枠の窓は、ガラスに歪みがある。風が吹くとガタガタとお喋り。
 
(つづく)

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