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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-33-

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「本物は心に直接届くということだよ」
 老師は言い、壷を手にした。
 コンと指の背で叩く。硬質な音は高密度である証拠。しかも、単に高密度というだけではなく、それが均一でなければ、焼く時に膨張力の集中を招き、割れる。
 つまり土台である土の準備、形作る腕、どちらも非常に精度の高さが求められる。
「1000年前だ。なのに我々はこれを越えるものを作れているだろうか」
「文様や形象は代を重ねると抽象化する」
 それは知識ではなくポッと浮かんだ言葉。
 言ってから納得する。“文字”というのは、そもそもそういう形象が線刻という形で抽象化したもの。
 ちなみに、レムリアは12カ国語を操ると書いたが、その課程である程度、文字・言語の成り立ち、系統体系について学習している。浮かんだ言葉は、その際に知識というより感覚的に掴んだ内容だ。壷はそれを具象化したようなものであり、ゆえに連想されポッと出たのであろう。なお、この若さでそれだけの言語を喋れるかという疑問がわく方もあろうが、希ではあるが事実存在する。最も有名な名を挙げれば、それこそ形象の文字であるヒエログリフを解読したシャンポリオンがいる。
「……どういう意味?」
 真由が問うた。
「例えば漢字。あれは元々ある状態を表した絵でしょう?」
「うん」
「ところが毎度丁寧に書いていられないから、だんだん殴り書きになっていって、省略されていって、本質部分だけを残した“それっぽい形”に落ち着いたわけ。それが漢字」
「ああ、で、今度はその漢字自体が殴り書きされて落ち着いたのがひらがな……」
「そう。で、この手の道具にそれを当てはめた時、人間工学的、かつ、美観的に納得できる形に最終的に落ち着くはず。しかもそこで重要なことは、人間工学的に素晴らしいものは形も美しいものが多いと言うこと。人間は道具に本質的に無意識的にそれを求めるから、美しいだけを追求すると“ただ綺麗なだけ”に陥りやすい。だから道具としての本質を失ったものは愛着や感動を呼ばない」
 
(つづく)

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