グッバイ・レッド・ブリック・ロード-36-
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「実は日本の大量生産技術の一つの原点がこの町なのだよ」
「え?そうなんですか?」
自動車、エレクトロニクスを始めとする日本の工業製品。
その質的下支えの出発点が、この町のしかもタイル?
「そうだ……」
父親は説明を始めたが、口語体ではまだるこしいので要約する。タイルも窯で焼く。窯で焼く以上、熱源とタイルとの距離はタイル個々で異なり、結果タイルの出来具合にムラが出来る。悩んだメーカは、窯の温度ムラをなくそうとするのではなく、温度に多少差違があっても同じ質で出来るように、タイルの原料の方、すなわち土をはじめとする原料の成分比を変えた。そしてその発想は、“部品や作業者のバラツキに寄らず、一定以上の品質を確保する”方向へと発展し、今日の高品質・大量生産技術の確立につながった。
実験計画法……田口メソッド……伊奈のルール……ロバストネス……。
父親の口からは技術・学術用語が踊り、電車が海の上、高架橋を走り始めてからも続き、その口調は熱を帯びた。そもそも大学以上で学習する内容でもあり、技術に興味を持たないレムリアには、理解までは至らない。しかし、薄い笑みさえ感じられる父親の姿は自信に満ち、そして楽しそうであった。その姿は以前、自分用にと、太陽電池から携帯電話へ充電できる装置を作ってくれた、タマゴの彼に似ていた。
そして、そんな父親の姿は真由の目の色を変えた。
「Robustness……頑健性?」
ロバストネスの意味を捉えて、真由が訊いた。
タイルの頑健性……ただでさえ固いのにそれ以上何を求めるのか。普通、言葉を聞いただけでは理解不能であろう。
「ああ、頑丈なタイルを作るって意味じゃないんだ。与えられる条件が多少変わっても、その条件に左右されるようなヤワなものじゃないって意味……」
(つづく)
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