グッバイ・レッド・ブリック・ロード-37-
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書くまでもあるまい。心理的頑健性こそ、今この父に、己れに求められている課題そのものである、と気付いたのだ。
同じ事は真由にも言えるだろう。ただ、彼女は頭では理解しているが。心が追いついていない。単純に言えば彼女の受けている陰湿な暴力は、彼女の英語能力をやっかんだ連中の嫌がらせである。連中は彼女が傷つく、困る、恥を掻く、といった状態を面白がっているのであるから、受け流す……“華麗にスルー”すれば良いことは判っている。大方のオトナもそう言うであろう。しかし、アイデンティティ確立期にあり、ひとりの『人間』としての地位保全(“誰かの子ども”ではなくなること)に、極めて敏感な心にとって、それは原理的に不可能だ。“悪評”であればあるほど敏感に、勝手に、自分の心であるのに意に反してと言えるほどに、反応し、傷ついてしまう。この問題に際した大人が『そこまで思い詰めてるとは思わなかった』とこぼすことが多いのは、こうした、大人と子どもとの認識の違いに基づく。
「父さん?」
黙り込んだ父親に真由が尋ねた。
「ん?ああ、いや、何でもない。ちょっと昔のことを思い出しただけさ」
父親は小さく笑った。
初めてこの男性の笑顔を見た、とレムリアは感じた。笑ったことそのものはあるかも知れないが、“心の喜び”の表現として、笑顔を見せたのは初めてではあるまいか。
そして、その小さな笑みは、真由の口元も緩ませた。
笑みを交わす父娘。
レムリアは安堵を覚えた。だが同時に、傍らでひとり疎外感を持っている存在にも気付く。
確かに今、“真の家族”である二人に対し、そこに入り込もうとしている者にとって、排他的な風圧を感じてもおかしくはない。
ましてや、レムリア自身はあっさり双方に受け入れられているのだ。
(つづく)
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