グッバイ・レッド・ブリック・ロード-40-
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真由は男の子の涙をハンカチでぬぐいながら言った。確かに、言葉も通じぬ異境の地でたらい回しにされるほど、心細いことはあるまい。
何とかして男の子を笑わせようとする真由。その姿にレムリアは気付く。この彼女には今、人に優しくなれる余裕が出てきている。
そして、それが恐らく本来の彼女の姿であり、そうやって逆に優しいから、相手の気持ちを慮るから、そういうものを持ち合わせない相手がつけ込んで来るのだ。
そういうことなら。
レムリアは真由の手をぐいっと引っ張った。
「(握って)」
「へ?」
何を唐突に、そんな顔をしながらも、真由は引かれた自らの左手で、拳を作った。
「(開いて)」
「はぁ。お?」
開いた手のひらにあめ玉。
「これってさっきの生徒手帳と同じ……」
「sorcery(魔法)」
レムリアはあえてそう言った。
このフレーズには男の子の方が敏感に反応した。しゃくり上げながらも目を見開く。真由は出てきたあめ玉を男の子にあげた。
男の子があめを口に放り込んだところで、童謡の“ふしぎなポケット”のメロディに乗せ、3人の衣服各所のポケットをポンと叩いては、歌詞の通りにビスケットを取り出す。歌詞は真由が即興で英語化した。
出てきたビスケットを男の子の手のひらに積み上げる。碧眼が輝きを帯びて夏空の色となり、感嘆の言葉が次々に飛び出す。
これは人目を引いた。この空港ではイベントコーナーで様々な催しを行うが、行き交う人々はその一種と思ったらしい。
あっという間に人だかり。
「お母様がいらっしゃる」
「え?」
レムリアは出したビスケットを、今度は一枚ずつ消しながら言った。衆目から上がる感嘆の声。
その衆目を真由が見回し、金髪の女性を見つけ出したと判る。
(つづく)
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