グッバイ・レッド・ブリック・ロード-46-
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セリフの内容の割に表情は穏和である。この場の状態を“お喋りが弾んでいる”といった感じで、安堵を持って捉えているようである。
「だってこの子ボランティア団体で世界中飛び回ってるもん」
真由が応じた。
「へぇ。その歳で……真由とあまり……来た来た」
「お待たせしました」
父親が言葉をちぎり、相好を崩す。
見るからに美味そうな、湯気立つエビフライが、次々運ばれてきた。
(本物)
さんざ待たされて食べたエビフライは、身が大きくてプリプリしている上、油の質も良いのだろう、かなりカロリーは高いはずなのに、ぺろりと平らげてしまった。
「名古屋名物エビフライ、というのは、テレビでタレントが言いふらした結果の誤った認識だ」
父親が言いながらエビフライの最後の一口をバリっ。なお、こういう席にはアルコールがつきものだが、父親の身体を考慮したレムリアの勧めもあり、控えている。
「しかし、ここまで傑出した味覚的クオリティを有するなら、名物と称しても問題はあるまい。宇都宮や浜松の餃子、各地のラーメンと比しても、ご当地ものと謳うに値する。オリジナリティがないといえばないが、逆に言えばシンプルでベーシックであり、であるがゆえにデファクトスタンダードとなるポテンシャルは充分にある」
レムリアは父親の論客ぶりに吹き出してしまった。
なんか、どうしようもなく下らないことを、わざわざ難しい語彙を使って“格調高く”語ってはいまいか。
そして、これがこの父親の“素のまま”なのだとレムリアは理解した。自分たちのお喋りによって精神的にほぐれたのか、追いつめられて影を潜めていたものが久々に顔を出した。そんなところだろう。
「実はお父さん面白い?」
レムリアは真由に尋ねた。
(つづく)
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