グッバイ・レッド・ブリック・ロード-47-
←前へ・次へ→
「……こんなキャラだったっけ、って思ってるとこ」
同様に驚いているのだろう、円い目で真由が応じる。
「看護婦さん」
急に父親がレムリアを呼んだ。
「はい?はいはい」
「あなた……外国の方だそうだけど、日本のこういう料理って本場と比べてどうだい?」
日本人が異邦人と話す時、まず食い物の話をするのはそれこそデファクトスタンダードなのか。
「あんまりそういう見方していませんね。これが標準でこれが邪道。自然科学ならともかく、人の感性が関わるもの、人そのものに、正解を与える方程式はないはず、と思っていますから。他と比べて、でなく、単に“自分にとってこのお店のエビフライはおいしい”、で、いいと思いますよ。このお店は多分、この長ぶっといエビさんを、しつこくなく揚げるっていうのが持ち味なのでしょう。私はそれに対して美味しいと言うだけ」
「なるほど」
父親は爪楊枝をくわえると、腕組みして頷いた。
「感性の関わるものに王道なし、か。……確かにそれならいいってもんでもないよなぁ」
レムリアは気付いた。
父親は作品の構想において、思考的にさんざ彷徨った挙げ句、一つの光明として“王道”に乗ってみてはどうかと考えていたのである。
王道……それは常滑焼きの場合、老師の言った“飾り気のない実用的な”容器・茶器となろうか。
でも多分、じゃぁそれで行ってみよう、なんてのは単なる惰性であって、意識した、魂の入った行動ではない。当然、作品に魂が宿るとは思えない。
だったら。
「邪道で王道で……考えていたら肩が凝るし怖くて何も出来ません。天動説地動説のように、立場がひっくり返ることもあります」
レムリアは言ってみた。学術肌の父親ならこの話題食いついてくれるだろう。
(つづく)
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -07-(2025.03.26)
- 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -047-(2025.03.22)
- 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -046-(2025.03.15)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -06-(2025.03.12)
- 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -045-(2025.03.08)
「小説・魔法少女レムリアシリーズ」カテゴリの記事
- 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -07-(2025.03.26)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -06-(2025.03.12)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -05-(2025.02.26)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -04-(2025.02.12)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】14歳の密かな欲望 -03-(2025.01.29)
コメント