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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-53-

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「……なんかミステリアス。でもレムリアって、あなたっぽい響きというか」
「そう?」
 レムリアは苦笑した。あの麻子と同じ感想とは何の因果か。
「レムリア」
「はい」
「……でもなぁ。顔立ちがその辺にいそうだしなぁ。姫子さん」
「は~い?」
「姫ちゃん」
「はいは~い」
「かわいいなぁ。でもやっぱりレムリア、かな。呼び捨てなのに呼び捨てっぽくない。“さん”はよそよそしいし、“ちゃん”はべたつきすぎ」
「了解。私をレムリアと呼ぶ人はこの国で二人目です」
 レムリアは真っ直ぐに真由の目を見返した。
「え……?」
「いけないっていう意味じゃないんだ。少し嬉しい。本名は地位を象徴する以上、名乗る上で体裁を求められる。姫子は所詮、世を忍ぶ仮の姿」
 ……レムリアが時代劇好きな自分に気付くのはもう少し後の話である。
「あなたは何者?」
 真由が問うてくる。看護婦、手品使い、本物の王女、そこまではバラした。
 レムリアは時計を見る。
 夜11時30分。
「いきなりだけど、“セラモール”って近い?」
「近いは近いよ。え?今からぁ?」 
 


 
 セラモールは、常滑市街中心よりやや北側、田んぼに囲まれた高台に位置する陶器専門のショッピングモールである。概略五角形に道が配され、中央を貫く通りを中心に店が並んでいる。観光バスが駐車できるスペースが広くあり、主たる客層はそういう方面。要するに店舗しかないエリアであって、客のいない深夜帯は無人と言って良い。
「今からセラモールですか?」
 果たしてタクシー運転手の中年男性は、訝しげに後席二人を振り返った。
「はぁ。友人と待ち合わせで。若い私たちとしては親の目を盗んでの逢瀬を望むわけです」
 レムリアの時代がかった言い回しに、白髪混じりの運転手氏はガハハと豪快に笑った。
 
(つづく)

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