総武快速passing love ~船橋~
~船橋~
扉開いた時が〝レース〟の始まり。
ただ〝レーサー〟の多くはスーツと制服。
駅の名は同じでも、JRと京成との間には距離があるだけに、座るために所定の電車に間に合うために、人々はその距離を駆け抜ける。
だからなにがしかの原因でどちらかが遅れると、ただでさえその有様なのだから文字通り修羅場。
雨の日に白い服着てハイヒール姿のあなたはその点でまだ慣れていなかったと見える。
走る人波の中でつまずいたかひねったか、盛大にヘッドスライディング。
全部まくれ上がって全部見えた。
そのあなたに蹴躓いたのは、〝車間距離〟を取っていなかった僕のせいか、〝よそ見〟をしていた僕のせいか。
僕はあなたの身体の上に倒れ込んだ。
「お嫁に行けな~い!」
起き上がり謝る僕に、果たしてあなたはそう叫んでわんわん泣き出した。
ひっくり返って全部見られて、全部見たその男が覆い被さって。
確かにあなたは驚いただろうが。
僕の方もまた驚いた。
人波に取り残されたようにぺたりと座り込む僕とあなた。
人の川の中州のように。そこだけ流れが避けて通る。都会へ向かう大河の一部。人が流れる川の中州。
堰切れたようにあなたは叫ぶ。これからお見合いに行くというのに服は汚れて或いは破れて。おまけにケガして、あまつさえはのしかかられて、白い服には靴の跡。相手は厳しい親なのに。がさつな自分を隠してきたのに。
人生責任取ってくれ。
そして僕は足首くじいたあなたを背負う。
月日が過ぎ、そんな事を思い出しながら、僕は改札を駆け抜ける。上司にペコペコ頭を下げて、定時ジャストに会社をダッシュ。
この寒空に社宅のカギを落とすなんて。いつになったら直るんだい?
がさつとは言わない、僕のドジ姫。
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