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2010年10月23日 (土)

桜井優子失踪事件【69】

【結2】
 
 伸び上がる炎が照らす周囲には燃えるバイクと、倒れた男2名。
 その内の1名がもぞもぞしている。Kがいつの間にか失神から回復しており、姿勢を俯せに変え、動けはしないものの、目をギラギラさせて周囲を見ている。金的を受けてよりの回復ぶりはどうであろう。過剰なまでの屈辱感と憎悪がそれを可能にしたというのが超感覚の答え。身体は動けないが、その範囲内で何か反撃できないかと考え、状況を分析している。それは首だけで攻撃をしてきたという蘇我入鹿や平将門を思わせる。
 ただ、この場のKに有効な反撃手段があるとは思えないが。
 声が聞こえて視線を向ける。一旦逃げたバイクの男達3名が戻ってくる。手に手に石やら木ぎれ等の獲物を持ち、鼓舞するためか悪態を叫びながら再度接近を試みる。
 すかさず彼が動いた。息吹いて炎を伸ばし、接近を阻む。
 男のひとりが髪の毛に火が付いてのたうち回る。盛大に炎を上げる辺り何か油性の物を付けているのであろう。
「天然ガス!」
 登与が言った。
「ああ、南関東ガス田」
 理絵子は一度だけテストで覚えたそのフレーズを記憶の底からどうにか掘り出した。
 それは神奈川県から千葉県南部にかけて分布するという。その位置は日本武尊の通った道に沿う。
 全部、繋がった気がした。
 製鉄に用いる熱源確保。従来の見方は山の木を切って使い果たすまで。根拠はある程度低温でも鉄以外が燃えるか溶ければ鉄だけ精錬は可能であり、だから弥生時代の技術でも作れたであろう。
 対し、もしガスに気付けば継続的に使い続けられる。たたら製鉄のように毎度炉を破壊して取り出す要はない。
 何より、高温を生かして鋼鉄が作れる。
 彼のような偉丈夫の肺活量で空気の量をコントロール。
 その熱量は戦略物資であり最大秘密である。また一方ガス中毒の危険がある……禁足地としたのはダイダラボッチの保護以上にそれらの対策とした方が自然か。まぁ十重二十重の理由があって別に構うまい。
「ガスのこと気体って言うでしょ。火の元であり人を殺すことも出来る目に見えぬもの……オカルトで言う〝気〟の概念具象化そのものじゃん。火の気」
「で、修験者の念動力を頼って奪いに来た」
 全部辻褄は合う。
〈洞窟の民はこの〝火の気〟が流れ込んで一気に死んだ〉
 ダイダラボッチが述懐するように言った。
 
(つづく)

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