桜井優子失踪事件【67】
【地6】
「いてぇよぉ。いてえよぉ!」
応じて転げ回るわけだが知るか。
「くっそてめえ!」
拳銃を拾った者は敵討ちとばかり理絵子に向けた。
「やめたら?大藪春彦(おおやぶはるひこ)にもあったよ。止めないけど」
登与もまたクールである。
すると。
「オマエラ全員ぶっ殺してやる!」
Kが叫び、動きが三つ。
まず、拳銃を拾ったその者は、あろう事か、引き金を引いた。
銃声と言うよりは爆発音。
どさっと、その者が、仰向けに倒れた。次いでバラバラかちゃりと散らばる金属パーツ。
死んだのか。テレパシーの回答は〝そこまで行き着いてない〟。されどその先を見ている余地は今はない。
Kが左手にナイフを持ち、……肩も外れていたらしい、ぶらんぶらんの右腕を抑えながら理絵子へ突進してきた。
銃弾すら回避できる相手に、半壊れの身体で肉弾戦を挑もうというのだ。正気の沙汰ではない。
されど止めないと……失神でもさせないと攻撃はいつまでも続く。
「お前が汚れる必要はないよ」
声と共に桜井優子が理絵子の前に身を置いた。
乱れ髪に、傷だらけの、大人びた横顔。
あなたを襲った、拘束していた痛みはどれだけ……。
「ずっと、お前のこと呼んでた。お前の声を聞いてた。それだけは出来た。そして、お前はオレのことを呼んでたろ。聞こえたぜ。……私はお前がこいつに触ることも、こいつがお前に触ることも許さねぇ!」
彼女は自身を〝オレ〟と呼ぶ。それが〝私〟に変わったその瞬間を、
理絵子は、荒ぶる女神の降臨と取った。
「お前が死ねこの反吐!」
桜井優子はKの股間を蹴り上げた。
Kの運動エネルギが全て置換され、Kの突進はそこで尽きた。
そして、加わった力積は充分に過ぎた。
Kの両膝がかくんと折れ、蟹のように口から泡を吹き、そのまま仰向けに倒れる。縮んだパンタグラフのような有様となり、びくんびくんと震える。
(つづく)
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