桜井優子失踪事件【68】
【結1】
「残りは!」
桜井優子はKの手首を踏みつけ、ナイフをもぎとり、身構えた。
3つめの動きは光芒と共に現れた。
光芒はヘッドライトである。バイクでギアチェンジ繰り返しながら加速してくる残りの3名。
そのまま理絵子達に突撃しようというのである。
これには男達が反応した。原子炉のような力感に満ちた肉体が少女達の前に並ぶ。マスターと、佐原龍太郎と、ダイダラボッチ。
メスを守るというオスの本能が漲る。獅子であり、狼であり、海馬だ。
彼らの筋肉が隆と音を立て、彼らの身からは湯気が立つよう。
〈ここはてまえにお任せを。これをお借りします〉
ダイダラボッチが言い、理絵子の錫杖を手にした。
そして、突如の咆哮と共に高々と持ち上げて。
打ち下ろす、否。
そのまま、地面へと突き立てる。
〝鈴鳴る杖持ちさまよい歩く姿は、鈴生りの鉄を求めて歩く儀式〟
対して。
彼、は杖を土の中へと深々と突き刺した。
理絵子は彼の意志を受け取る。
「みんな姿勢を低く、寝そべって!」
彼、が杖を引き抜く。
その瞬間。
ボウン。擬音にすればそうなるか、大きな太鼓が打ち鳴らされたような音がし、身体ごと空気揺さぶられ、伏した視界が赤く染まった。
地面から立ち上がる火柱。まるで理科の実験に使うガスバーナーを埋め込んであるかのように。
3台のバイクは驚いたか爆風か、ひっくり返ったようだ。その結果どうなったかは炎の明るさによって確認できない。ただ、各車のエンジンが停止し、突撃が阻止されたことだけは判った。
次いで、ダイダラボッチの彼は、身体のけぞらせて空気を吸った。
巨体の有する巨大な肺活量が空気を吹き出す。
炎は煽られて増長し地面を走る。その有様火炎放射器の如し。
バイクの3人は逃げ出すより他に手はなし。悪態を付きながら炎と距離を取る。
彼は空気を吐くのを止めたが炎は消えない。地面から吹き上がり燃え続けている。
(つづく)
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