グッバイ・レッド・ブリック・ロード-66-
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マダガスカルには雲がかかり、渦巻くその姿から熱帯性低気圧であると判じる。但し南半球であるので、その渦は北半球と逆向き、時計回り。
「あれって台風?」
真由が訊いた。
「の、お友達。……大丈夫。それで危機的状況にある人はいない」
レムリアは言った。
「なんで判るの?」
「副長にはそういうことが判ってしまう。私が真由という女の子が傷ついていると判ったように。この船は、副長のそうした類稀な能力を持って危機にある人を探す……待って」
レムリアはPSCをセットしている左の耳を指先で押さえた。ピン、という小さな金属的な音と、セレネの声。次いで同じものが聞こえたであろう、真由も同様に耳を押さえる。
「副長が危機にある人の心の悲鳴をキャッチした。……ごめん早速だけど寄り道させてもらう」
セリフが終わる直前から、発進時と同様の急加速がなされ、それこそ映画のシーンチェンジのように一気に夜になる。
月明かりの時間域に戻る。このように地方時に慣れる前に昼夜逆転したりするので、結局今が何時なのか訳が判らなくなる。短時間でめまぐるしく入れ替わる昼と夜。生物の体内時計は曙光でリセットされると言うが、このような短時間で何度も曙光を浴びるのは影響としてはどうなのだろう。
『到着します』
セレネがイヤホンの向こうで言い、船が減速し、高度を下げる。
星空が移動をやめた。オリオンの高度はかなり高い。従い南方。
唐突に潮騒が耳に入ってくる。発進時にセットされた薄膜が解除されたのである。
海の匂い。夜の海。
目の前にはヨットが一艘転覆しており、西に傾いた月光に無惨な姿をさらしている。主のいないライフジャケットが波間を漂う。
海難事故の現場であることは歴然としていた。ちなみにかなり沖合いであり、人家とおぼしき明かりは水平線遥か彼方。
(つづく)
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