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2010年11月 6日 (土)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-67-

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「ニューカレドニアです。この船でしょう、おぼれた人の悲鳴を副長が捉えました。今は途切れています。水中に沈んでしまったようです」
「え……」
 真由が凝然となり、常夏の島に不似合いな胴震いを見せる。さもあろう。レムリアの言葉は直接的には“死”の宣告。
 “死”の現場に立ち会うという事態。
 人が死ぬ。その認識がもたらす本能的な恐怖感。
「助……かるの?」
「助けるの」
「どう……やって……」
 レムリアはウィンクして。
「ウチらボランティアですから。……ドクターシュレーター、レムリアです。船体を傾けてください。右舷を水面ギリギリまで。……はい」
 レムリアは真由の腕を取り、甲板右舷の柵に掴まらせる。
 船が傾き、波頭がその柵を軽く打つようになる。
 レムリアは目を閉じる。
 そして、その人差し指を伸ばすと、まっすぐ、低い高度の月へと向けた。
 指先が光り出す。セントエルモの火ではない。中に星を蔵したように金色の光を放つ。
 そして彼女は唱える。
「(我が意を解す水の友よ、我が思い我が頼みを聞き届けては下さらぬか。肯とあらば水の上へ)」
「え?」
 カッコで記述したレムリアのセリフは、現存するいずれの言語体系にも属さない文言である。
 レムリアは言い終わり、指先の光を海中へ投じる。まるで意のままに動く蛍のように、金色の光はレムリアの指を離れて海中へ入り、走る。
 レムリアは目を開いた。
「答えた。こっちへ来る」
 呟くと、船縁から水面を覗き込む。
 真由は不思議そうな目。
 理解不能で当然であろうとレムリアは思う。ただ、この期に及んで、この船に乗せた現時点で、その理解を越えた内容について、もはや隠しておくつもりはない。
 イヤホンに男の声。
『ソナーに感。お前が呼んだか?』
「ええ」
 
(つづく)

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