グッバイ・レッド・ブリック・ロード-67-
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「ニューカレドニアです。この船でしょう、おぼれた人の悲鳴を副長が捉えました。今は途切れています。水中に沈んでしまったようです」
「え……」
真由が凝然となり、常夏の島に不似合いな胴震いを見せる。さもあろう。レムリアの言葉は直接的には“死”の宣告。
“死”の現場に立ち会うという事態。
人が死ぬ。その認識がもたらす本能的な恐怖感。
「助……かるの?」
「助けるの」
「どう……やって……」
レムリアはウィンクして。
「ウチらボランティアですから。……ドクターシュレーター、レムリアです。船体を傾けてください。右舷を水面ギリギリまで。……はい」
レムリアは真由の腕を取り、甲板右舷の柵に掴まらせる。
船が傾き、波頭がその柵を軽く打つようになる。
レムリアは目を閉じる。
そして、その人差し指を伸ばすと、まっすぐ、低い高度の月へと向けた。
指先が光り出す。セントエルモの火ではない。中に星を蔵したように金色の光を放つ。
そして彼女は唱える。
「(我が意を解す水の友よ、我が思い我が頼みを聞き届けては下さらぬか。肯とあらば水の上へ)」
「え?」
カッコで記述したレムリアのセリフは、現存するいずれの言語体系にも属さない文言である。
レムリアは言い終わり、指先の光を海中へ投じる。まるで意のままに動く蛍のように、金色の光はレムリアの指を離れて海中へ入り、走る。
レムリアは目を開いた。
「答えた。こっちへ来る」
呟くと、船縁から水面を覗き込む。
真由は不思議そうな目。
理解不能で当然であろうとレムリアは思う。ただ、この期に及んで、この船に乗せた現時点で、その理解を越えた内容について、もはや隠しておくつもりはない。
イヤホンに男の声。
『ソナーに感。お前が呼んだか?』
「ええ」
(つづく)
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