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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-71-

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 その間に大男二人が薄膜から人体を下ろす。なるほど東南アジア系の女性であり、女である自分たちの目から見ても結構な美人さんである。手肌の手入れや痩身ダイエットの類に気を使っている(カネをかけている)なと一見して判る。じゃらじゃらしたアクセサリといい、富豪の娘ならではの自己演出。
 が、しかし。
 その肌には生気無く色は鈍く、唇は青紫。血流が滞ってよりやや時間が経っていることを示している。無論、意識は無く、腕がまるで作り物のようにだらりと垂れる。
 大男片方、ラングレヌスが女性の水着胸元を引き裂く。一瞬ギョッとする眺めだが、次いで手を伸ばしたのは傍らの枕サイズの機械。そこからケーブルを引き出し、その先端にある吸盤付き電極を乳房の下へ貼り付ける。
 機械……体外式除細動装置の電源オン。
「心電図モードで」
「了解」
 レムリアはラングレヌスに言い、自らは女性の腕を取り脇の下を指先で圧迫する。次いでまぶたを指先で押し開き、ウェストポーチからペンライトを出して瞳を照らす。
 装置の描く心電図は横一線……心臓は停止。
 それは客観的には“死”そのものだが。
「心停止。瞳孔反射なし」
 レムリアはそう言っただけ。
「使うか?」
 ラングレヌスの質問の意図は、機械の除細動システム……心臓電気ショックを使ってみるか?の意。
 しかし、それは除“細動”の言葉通り、心臓駆動筋肉の痙攣を排除するものであり、対し女性の心筋は微動だにしていない。なお、本来この種の判断は医師が下すものであるが、レムリアは普段の活動ゆえに各国医師らからある程度ノウハウを伝授されている。最前線が即座に医師の診断を受けられる状況とは限らないからだ。その場合“可能な限りの最善”をその場の人間が選択できなくてはならない。
 
(つづく)

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