グッバイ・レッド・ブリック・ロード-72-
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「いや、これは心筋が完全に……直接じゃないと。それまでは我々で持たせて」
「OK任せろ」
レムリアの台詞にラングレヌスが女性の胸元に手のひらを当て、圧迫を始める。なお、レムリアの言った“直接”の真意は、胸部を切開し、心臓に直接触れてのマッサージ(開胸式心臓マッサージ)、を意味し、当然外科手術の範疇である。従いここで出来るのはセオリー通りの心臓マッサージ。
ラングレヌスの動作に心電図が反応する。但し、描かれる波形は尖り乱れたノイズの固まり。
「ドクターシュレーター。センターへ急行」
レムリアは言うと、自らは女性に対しマウス=トゥ=ノーズ(鼻の穴から吹き込む)で人工呼吸。
『了解』
回答に程なく船が離水し、猛然と加速。レムリアはラングレヌスの動きに合わせて息を送る。対しラングレヌスが、蓮の葉を思わせる大きな手で女性を圧迫するたび、口元からあふれ流れる水。
真由は傍らでまばたきもせず息もせず。今、甲板は文字通り“命のための戦場”であって、初めて見る彼女が圧倒されてしまうのは当然と言えば当然。
「大丈夫だ……彼女は……強い」
アリスタルコスが、真由の両肩を背後からそっと支え、野太い声で囁く。
真由は突然肩を抱かれた驚きも混じっていようか、ひゅっと音を立てて息をして。
「……うん」
しかし少し安堵したように頷いた。その抱かれた肩がほぐれるように動く。緊張していたらしい。
そして、緊張がほぐれたせいもあろうか。こういう場合、見ているしか出来ない側は、得てして何も言えなくなってしまうのが普通であろうが。
「この水って出さなくて……」
彼女は、言った。
少しでもいい、手伝いたい。その意志がつむいだ言葉だとレムリアは理解した。
しかし。
(つづく)
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