グッバイ・レッド・ブリック・ロード-79-
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「雪を甲板山盛り取ったね」
レムリアは言い、真由の手を引いて操舵室の奥、スクリーンの前へ進んだ。
室内を手短に説明する。操舵室はその巨大スクリーン、スクリーンに沿って湾曲する形で設けられたコンソール(操作卓)。そして背後にひな段状に配された未使用のコンソール群と、その脇の副長席、最上部の船長席で構成される。
スクリーンの画面はさながらビデオの早送り。瞬時にキャンプ火災現場に戻り、その炎が見えた次の刹那、画面内部が天地逆さま。
先のイルカよろしく、今度は船体がくるりと回転し、甲板に積み上げた雪を火災現場に投下。
周囲を照らしていた火災が消えた。
「視認して来ます。INSオフ」
レムリアは言った。
「了解」
シュレーターがスイッチ操作。
「ちゃんと消えたか肉眼で確かめる。手伝って」
レムリアは真由に言った。
「うん」
真由と走り出す。
甲板へ出、二人で左右両舷からキャンプを見回す。火は消えたようだ。完全な闇であるせいか、逆に良く判る。
その時。
『レムリアこの胸騒ぎは?』
セレネから、不穏な心理をキャッチした旨の言葉。
程なく近場で騒ぎが生じる。
甲板の二人は、同時に、その声に気付いた。
赤ちゃんの泣き声と、その母親とおぼしき女性の悲鳴。
灯りが欲しい。
「船の……」
『船長たちが危険に晒される』
レムリアの言葉をシュレーターが即否定。船の能力上、一帯を明るくする事は可能ではある。だがそれは周囲に対して、『ここに何かある、強力な照明を有する物がある』、と知らしめることになる。
強力な照明は物持ちの証。反政府勢力の彼らにとり、それが敵であれば攻撃するだけだし、支援団体なら強奪するだけの話。
要するに明るくしたらロケット弾が飛んでくるのだ。船自体は逃げればよいが、人々の中に落下するのは困る。
「(月女神よ我らの目となる天の光を)」
レムリアは指を唇に当て、そういう意味の語を唱え、その指で天を指し示した。
(つづく)
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