グッバイ・レッド・ブリック・ロード-87-
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「これが、世界の現実」
レムリアはただそれだけ言った。次いでラングレヌスに頼み、船倉奥から自分より重い木箱を一つ出してもらった。
「本来私たちは食料援助はしない。ただ今回、私たちは、放火されることを事前に見抜けず、あるべき食料を失う羽目になった。これはそのせめてもの穴埋め」
木箱を船から少し離れたキャンプの中に下ろすと、人々が船から離れ、そちらに競い群がる。
彼らは釘で組まれた木箱の板を、素手で力任せにむしり取り、開き始めた。
「あれの中身は、日本でもおなじみの“そば”の実」
レムリアは真由に言った。真由は意外、とばかりに目を円くし、
「そば?ざるそばとかの?」
「そう。痩せた土地でも育つ数少ない穀物。日本固有ってわけじゃないし、食べ方は麺に限らず様々。ただ、食べてしまったらそれっきり。だから、植えると同じものが大量にできるとイラストが入れてある。どう解釈するかはこの人たち次第。こればかりは、与えるだけ、待つだけ、じゃぁ何も解決しない。口頭で教えても、食べてしまう人たちは食べてしまう」
レムリアは言った。そして船長アルフォンススに目を向け。
「で、いいんですよね船長。私たちにはこれ以上……」
船長アルフォンススは頷くと、展開された機器の傍らにあるボタンを押した。
簡易救護室が船倉に折りたたまれる。狭くなるが、救護室としての機能が失われるわけではない。ただ、ベッドを機器類が取り囲むことになるため、やや物々しい印象にはなる。
雨降る星の下、そばの実をケンカの勢いで取り合う人々を見せつつ、船倉が閉じられる。
船が飢餓の地を離れる。
センターへ急行し、NICU(新生児集中治療室)に母子を預ける。実はこの過程で赤ちゃんが心停止に陥ったのだが、そこは最新機器と赤ちゃん本来の生命力で何とか乗り切った。
(つづく)
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