グッバイ・レッド・ブリック・ロード-89-
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「あなたが救ってくれなかったら、あの子はお母さんの元にいられなかった」
「そういやcardiopulmonary arrestって言ってたね。そんなに危険……」
レムリアは首を横に振った。
「命の危険じゃない。その前の話。あなたが船から飛び降りてくれなかったら、あの子は別の人の手に掛かり、人身売買ルートに乗せていたでしょうってこと」
「人身ば……!」
真由は、目に見えて判るほど、身体をびくりと震わせ、絶句した。
「そんな……」
その瞳が輝きを浮かべる。唇が震えわななく。
そして、幼い子どものようにわぁわぁと声を上げ、真由は泣き出してしまう。さもあろう。これでもか、まだあるか、そこまでするかとばかり、卑怯と凄惨を立て続けに見せられたのだ。幸せが当然な国の娘にとって、フィルタの向こうに隠されていた想像を超える現実、さらけ出された状況は、文字通り筆舌に尽くしがたい事態であっただろう。感情が抑えきれなくなってしまったに相違ない。
レムリアは真由の気が済むまで、その身を自分に預けさせた。
「親父が……」
泣きすぎて、しゃっくりが出ているような状態のまま、真由が口にした。
「親父が、お前のこと、修羅場をくぐってきたというか、過酷な経験をしてきたようだ、って言ったろ?あれ、大げさじゃなかったんだな……」
レムリアは、真由の肩へと回した自分の腕に、力を込めるだけ。
真由は続けて。
「……卑屈になってた自分が恥ずかしいよ。世界で一番不幸なつもりのバカなお嬢だよ」
「そんなことない。あなたの受けた数々が酷い事には変わりはない。人を傷付ける事に、上も下もない」
レムリアはすかさず言い、真由の涙を指で拭った。と同時に、彼女の言葉に、認識変化の兆しを見、それ以上言うのをやめた。
(つづく)
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