桜井優子失踪事件【72】
【結5】
大好きだった存在。義務教育すらうっちゃらかって、一緒に住んでもと思うほど。つまり将来を視野に入れるほど。オトナはコドモの浅薄な思い込みと笑うであろう。しかし恋というプリミティブな感情に巧拙という判断基準は適切ではない。
その幼いなら幼いでよい、純粋で全力の思いを全て裏切られ、あまつさえは再会したと思いきや誘拐状態。
かわいさ余って憎さ百倍というが、そんな軽々な言葉では形容できまい。
彼女は文字通り、黄泉のイザナミ。
「たとえ、いいようにされたのはこっちで、犯罪の被害者であっても、死なせたらその途端こっちが犯罪者なんだろ?……だったらもう2,3本あばら折ったろかな」
「だから、『通報のために下山する』んだよ。あばら折れてるなら不用意に動かせない。携帯電話は通じない」
佐原龍太郎が言った。
「法律は守っちゃくれない。ただの文章だ。自分で使って初めて武器になる」
と、そこで、杖を刺してもいないのに勝手に穴が開いてガスが吹き出し、火柱になる。
ガスの圧力が高まっていることは明らかであった。
つまり、もう、ここにいることは許されない。限界である。
〈あなた方の危機は去ったか〉
ダイダラボッチの彼が尋ねた。その肌はしかし防火防炎というわけではなく、どころか炭化しているが、平気なようだ。
炭化層が表面を覆うことで逆にその下の発火を防いでいるのかも知れぬ。
鋼鉄が、表面を覆うサビによって、腐食の進行を防いでいるように。
人の肌は、傷付くと代謝を早める。
「ええ」
理絵子は答えた。
〈私が託された仕事をして良いか〉
「もちろん」
〈我らの地を穢した者を罰する、あなた方は逃げられよ〉
つまり、この愚連どもの処遇……問題その2。
「殺すつもりですか?」
理絵子はダイダラボッチの彼に尋ねた。
縄文時代……罪という意識はあるまい。ただ、神話が言うには、理由無き殺人は肯定されない。
〈いけませんか?〉
「この者達が犯してきた数えきれぬ罪には、一瞬の死すらも贅沢です」
その時。
(つづく)
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