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桜井優子失踪事件【71】

【結4】
 
「ここは公道じゃねーから無免許運転にはならねーだろ。……悔しいけどあいつのバイクなら乗れちゃうんだなこれが畜生め」
 Kのバイク。
〈荒ぶる女神よ心得た〉
 桜井優子の考えを理絵子が認識したところで、ダイダラボッチは火柱立つその中へ歩き出した。炎を越えてそのバイクを取ってくるつもりらしい。
「……ちょ、偉丈夫さんまさか」
「任せて大丈夫だと思う」
 当然、体表を覆う体毛が燃え上がる。
 炎の男であった。彼が、彼ら種族が、火を扱うに適した種族であることは自明であった。
 植物の中には山火事に耐え、むしろそれを繁殖に用いる種もあるとか。
 であれば、人間で同様の展開があっても不思議ではあるまい。
〈燃える赤き大地に我らの始祖はたどり着いて立ち、この様な杖で火をかき混ぜ、住む地と水とを中から探り出した〉
「アメノヒボコの伝承みたい」
 登与が彼の意志と記憶を言葉に置換する。旧石器時代の終わり、九州が海底火山鬼界(きかい)アカホヤの大噴火で全面的に火砕流に埋もれた。文字通り炎の大地と化した。その時の火山灰が関東地方で検出されるほどである。
 そこに、まだ大地の炎が消えぬうちに最初の縄文人として入植……彼はそのことを言っていると登与は解釈したようだ。古事記の伝承に準じて。
 真偽はさておき可能性はなくはない。神々があらゆる事物から生まれる古事記において〝血液〟は重要な命のファクターだが、溶岩流は言わば地球の出血であり、その態様は混沌そのもの。
 程なく火の海からダイダラボッチが戻ってくる。……そのイタリア製のバイクを両腕に抱え持ち、己れの身体を盾に火と熱から守りながら。
「しかし怪力だなあんた……オラ!カギよこせクソ反吐!」
 桜井優子の行動は容赦がないという以上の荒ぶる女神そのものであった。
 腰も立たないKの腹部を思い切り蹴り上げる。
 Kが血反吐を飛ばしながら仰向けになり、再度動かなくなる。
 桜井優子は両手首を踏みつけて動きを封じてから馬乗りになり、左右に開いたジャンパーの内ポケットを探り、バイクのカギを取り出す。
「……あれ?あばら折っちまったよ。で、これを放置して帰ったら犯罪なんだっけ?正直死んでも構わないんだけど」
 桜井優子は理絵子を仰ぎ見た。それは彼女の本音であろう。
 
(つづく)

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